拝啓、愛しのパイロット様

「小町さ〜んっ!」
「はい?」

 レッスンの時間が終わり、帰ろうとしていた小町を引き留めたのは実登里だった。

「呼び止めてごめんなさいね。私としたことが小町さんに個展の招待状を渡すのをすっかり忘れていたわ」

 実登里はそう言うと見覚えのある封筒を小町の目の前に差し出した。

「ありがとうございます」

 おずおずと受け取った封筒に視線を落とすと、そこには『仁科小町様』と丁寧に宛名が書かれていた。

(あ……)

 ひと目見ただけで、宛名を書いた人物がわかる。
 久しぶりに眺める由桔也の文字は変わらず綺麗で、なんだかズキンと胸が痛くなる。

「ねえ?あなた達、なにかあったの?」
「え?」

 実登里に言い当てられた小町は、思わず聞き返した。

「家に帰ってきた由桔也には覇気がないし、小町さんはうわの空なんだもの」
「すみません……」
「あら、謝らなくていいよ。一緒に暮らしていれば、意見が食い違うこともあるでしょう。思う存分、やりあってちょうだい。個展には来てくれるのよね?」
「はい」

 力強く頷くと、実登里はぱあっと顔を輝かせた。

「よかった!新作もいっぱい書いたの!ぜひ見てね!」

 実登里は嬉しそうに口もとを綻ばせた。
 小町の目には書道家として華々しい活躍する実登里が眩しく映る。

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