拝啓、愛しのパイロット様
その後、調子を取り戻した小町は栞奈と一緒に個展の受付の前に立った。
栞奈は慣れているのか、実登里宛の差し入れや贈り物を受け取ったり、顔見知りの来場者と笑顔で会話を交わしていく。
小町も彼女に教わった通り、パンフレットを率先して渡し、展示物の前が混雑しないように定期的に声掛けをした。
個展は大好評で、時間は瞬く間に過ぎていった。
夕方になり来場客のピークが終わると、雑談に興じる余裕もでてくる。
「それにしても、由桔也は遅いわね。飛行機ってこんなに遅れるものなの?あとでうんと文句を言ってやらなくちゃ!」
栞奈はとうとう痺れを切らしたのか、遅刻する弟に対して悪態をついた。
「パイロットの仕事って、ときには予想もつかないことが起きるものですから」
まあまあと笑いながら宥めるものの、栞奈はまだ腹の虫が収まらない様子だ。
「かわいい恋人が待っているんだから、飛んで帰ってくればいいのに。なんのためにジェット機を操縦しているんだか」
あまりにユーモアのある言い草で、思わず噴き出してしまう。
栞奈の飾らない人柄はものの数時間で小町を魅了し、ふたりはすっかり打ち解けた。
「心配しなくても、そのうち来ると思いますよ」
「そう?」
笑いを堪えながらそう告げると、栞奈はようやく矛を収め、パンフレットを段ボールから補充し始めた。
彼女が背を向けた隙をつくように、スカートのポケットに入れてあったスマホを取り出し、画面に視線を落とす。
一時間ほど前、仕事が終わったら連絡してほしいと由桔也にメッセージを送っていたが、いまだに返信がない。