拝啓、愛しのパイロット様
(たしかに遅い……)
きっと、こちらへ向かっている最中だろうが、あれだけマメな彼がメッセージひとつよこさないのは、いくらなんでもおかしい。
パイロットの仕事が突発的な事故や天候に左右されやすくフライトが遅れることも珍しくないのも事実だが、もう夕方の四時だ。
昼過ぎに来ると言っていたのに、そろそろギャラリーを閉める時間が迫っている。
「ふたりとも!大変よ!」
不安が頭をよぎり始めたそのとき、来場客を案内していたはずの実登里が息を切らせ受付まで駆け込んでくる。
「どうしたんですか?」
声を荒らげるような無作法な真似をしない実登里のただならぬ様子に、いつもと違うものを感じ慌てて尋ねる。
「今、いらっしゃった人に聞いたんだけど羽田空港で大きな事故があったらしいの!」
「事故ですか?」
「ええ、パリから到着したBCJの飛行機が着陸後に炎上ですって!」
BCJという社名を聞いた途端に、なぜ実登里がこれほど動揺しているのかわかってしまう。
「まさか……」
最悪の想像をしてしまい、思わず口もとを手で覆う。
いつまで経っても連絡をよこさず、姿を現さない由桔が事故を起こした飛行機に乗っていると考えれば、驚くほど辻褄が合う。