拝啓、愛しのパイロット様
「本当にどれを選んでもいいの?」
恐るおそる尋ねると、祖母は小さく笑った。
「ええ、もちろん!その代わり、大事に使ってね」
祖母はとびきりの笑顔で応えると、小町の頭をそっと撫でてくれた。
「ありがとう、おばあちゃん」
小町はお礼を言うと、ぎこちない笑顔を祖母に向けた。
きっと祖母は、孫娘の複雑な胸中を見抜いていたのだろう。
なにせ置き去りにされてから、まだ一週間しか経っていないのだ。
儚い希望を捨てきれず、母の面影を愚直に追いかけてしまう小町を不憫に思い、優しい言葉を投げかけたに違いない。
母親から見捨てられたことを嘆いてばかりではいられない。
これから新しい生活に慣れていかなければならない。
新しい文房具を選ぶことは、決別への第一歩だった。
(どれにしよう……)
祖母に背中を押してもらった小町は夢中になって、文房具を吟味した。
あまり広くはない店内を縦横無尽に歩き回り、棚という棚を隅から隅まで眺める。
小町だって本音を言えば、友人たちが持っていたかわいいペンケースやマーカーが羨ましかった。
母から派手な文房具は必要ないと言われて、今まで無地のペンケースに鉛筆と消しゴムだけしか買い与えられてこなかった。
目の前には小町が憧れの眼差しで見つめていたすべてが並んでいる。
この場所はまさに夢の空間だった。