拝啓、愛しのパイロット様

「まったまた~!それにしては張り切ってるじゃないですか!」

 なおも小町をからかおうとする乾の目は爛々と輝いている。
 ここ数年浮いた話ひとつない小町から恋バナの気配を感じとり、飢えた獣のように話題を欲しているのだ。

「本当に違うから!ほら、乾さん!午後の打ち合わせが始まるんじゃない?」
「あっ!いけない!」

 乾は時計を見るなり、ノートパソコンを持ち、会議室へと足早に駆けて行った。
 注意を逸らすことに成功し、ようやくあたりが静かになったあとで、人知れず息をつく。

(由桔也さんが彼氏なんて恐れ多いよ)

 見た目もさることながら、パイロットという憧れの職業に就く彼に、自分が相応しいとは到底思えない。

(プレゼントを一緒に買い物に行くだけだから!)

 なんとなく浮き立つ気持ちは、見て見ぬ振りをするべきだろう。
 小町は『ただの買い物』だと、自分に言い聞かせながら、ひたすらパソコンに向かった。

< 32 / 110 >

この作品をシェア

pagetop