拝啓、愛しのパイロット様

「困りますっ……!」

 小町は渾身の力を込めて、神城から逃れようともがいた。
 これから由桔也と会う約束をしているのだ。自分勝手な考えを押し付けてくる上司に付き合っている暇はない。

「俺に任せておけって」
「無理ですってば!」

 そう叫びながら、これでもかと思い切り腕を振り上げた直後。

「いっ……!」

 トートバッグがみぞおちにクリーンヒットしたのか、神城は苦しそうにうめいた。腕の力が緩んだ隙に、小町はパッと身を翻した。

「急いでいるんで!すみませんっ!」

 悪いと思いつつも、早口で謝り、これ幸いとばかりに、その場から逃げ出す。
 脱兎のごとく駆け出し、猛スピードで会社から離れる。
 途中、歩道に敷き詰められたタイルに足を取られて、危うく転びそうになったが、なんとか耐えた。

(さすがにここまで追ってこないよね?)

 会社から充分離れたところで、小町はようやく走るスピードを緩めた。
 久しぶりの全力疾走は、社会人になってから鈍った身体にはきつい。
 はあはあと息が切れ、呼吸が苦しい。
 胸に手を置き、ゆっくり心臓の鼓動を落ち着ける。

 せっかく新品の服をおろしてきたのに、汗でブラウスが肌に張りついて、不快感が募ってくる。

 小町がトートバッグからハンカチを取り出し、額と首もとの汗を拭っていたそのとき。

「仁科さん」
「ひっ!」

 突然名前を呼ばれた小町は驚きのあまり悲鳴をあげた。

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