拝啓、愛しのパイロット様
「あの人は?」
「私が所属している営業部の部長です」
間髪入れず答えると、由桔也は渋い表情になった。
「つまり、直属の上司ってことか。あいつが小町を困らせている犯人で間違いないんだよな?」
「……はい」
小町は悩んだ末に、そのまま頷いた。
職務を逸脱したパワハラやセクハラは本人に自覚がなければ、改善が難しい。本当に頭が痛い問題だ。
しかもここにきて、新たな問題が発生している。
ただでさえややこしい事態なのに、状況をさらに複雑にした元凶でもある彼に尋ねる。
「さっきの話はどういうつもりですか?よりにもよって『婚約者』なんて……」
ここ数年、彼氏もいなかったのに、突然婚約者ができるなんて、先程は驚きすぎて心臓が止まるかと思った。
助かったのは本当だけれど、頭のいい由桔也ならきっと他の手を思いつけたはずだ。
恨みがましくジロリと睨むと、由桔也はケロリとした態度で説明し始める。
「恋人より、婚約者って言った方がインパクトがあるだろう?一緒に住んでいる理由づけにもなるし」
「う……。たしかに……」
妙に説得力のある言い分に、ぐうの音も言えなくなる。
一定の効果があったのは明らかだった。
いつもはネチネチとしつこい神城を追い払えたのは、由桔也の存在に恐れをなしたからに違いない。
同じことを小町が言ったとしても、ほとんど効果がなかっただろう。