拝啓、愛しのパイロット様
「ほら。過保護な婚約者がいるって思わせておけば、なにかと都合がいいだろう?」
由桔也は反論の暇を与えないよう畳みかけた。
小町に男性の影がなかったことが、付け入る隙を与えていた一因だったとも考えられなくはない。
彼の術中にはまったような気もするが、これで神城が大人しくなるなら万々歳だ。
「わかりました。しばらくは婚約者だということにさせてください」
「ああ、喜んで」
由桔也は満足げに微笑んだかと思えば、目の前にあるオフィスビルを見上げた。
「すんなり引き下がってくれるといいんだけどな」
神城と実際に顔を合わせたことで、一筋縄ではいかない気配を察したのか、由桔也の言葉にはうっすら諦め色が滲んでいた。
「そうでなければ困ります。このままだと自分の家にも帰れないんですから」
小町が不満を漏らすと、由桔也はハハッと朗らかに笑った。
「俺はずっといてもらってもかまわないけどな」
嘘か冗談かわからない発言に、小町だけがやきもきさせられたのだった。