拝啓、愛しのパイロット様
4.ゴーショー

「おい、仁科!今月のノルマが未達なのはどういうことだ!」

 営業部内に響く神城の怒鳴り声に、誰もが何事かと好奇心を露わにして、窓際のデスクを遠巻きに眺めている。

 大勢の人に固唾を呑んで見守られて、居心地の悪い思いをしながらも小町は淡々と説明を始めた。

「今月の売上が落ちているのは、来月リニューアルの新製品への切替えのため、各社で現行の在庫の払出しを行っているからです。むしろ、来月以降の発注数は増える見込みで――」
「小賢しい言い訳をするな!」

 すべて言い切らないうちに、神城は威圧するように激しくデスクを叩いた。

(どういうことかと聞かれたから説明したのに)

 どうやら彼の頭の中では小町が悪いという図式がすでに出来上がっているみたいだ。
 最初から聞く耳を持たない態度に、内心呆れてしまう。

 わざわざデスクまで呼びつけられ、これみよがしに怒鳴りつけているのは、所詮パフォーマンスにすぎない。
 営業部内にはノルマが未達なものが何人もいるが、叱責されているのは小町ひとりだけ。

 スターライト文具の営業部では、個人のミッションとしてある程度のノルマが設定されているものの、達成は努力義務で、決して強要されていない。

 ましてや、見せしめのように大勢の前でののしるなんて、本来なら許されないはず。

 そう思ってはいても、叱責される側の立場から進言するのもいささか、分が悪い。
 小町が今月のノルマが達成できなかったのは、申し開きようのない事実だからだ。
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