拝啓、愛しのパイロット様

 ◇

 本格的な夏が到来した七月のとある休日。

(まだかな)

 小町はそわそわと落ち着かない様子で、時計を見つめながらソファに座っていた。
 約束の時間である一時まであと数分。
 今か今かとそのときを待ちわびていると、示し合わせたかのようにインターフォンの音が部屋の中に鳴り響く。

(来たっ!)

 小町は音が聞こえると同時に廊下へ走り、素早く玄関の扉を開け放った。

「こんにちは、小町さん」
「実登里先生、こんにちは!外は暑かったでしょう。こちらへどうぞ!」

 扉の向こうから現れたの実登里に、恭しくスリッパを勧めると、早速リビングまで案内する。

「ふふっ。ありがとう」

 和服姿の実登里はハンカチで首を滴る大粒の汗を拭きながら、廊下をゆっくりと歩いた。
 今日は三人で個展の打ち合わせをする予定なのだ。

「いらっしゃい、母さん」

 エアコンのきいたリビングに入ると、キッチンから由桔也が声をかけてくる。
 いつもは忙しく空を飛び回っている彼も、今日ばかりは地上で羽を休めている。

「ケーキも買ってきたのよ。みんなで食べましょう」
「ありがとうございます」

 小町はお礼を言いつつ、ケーキの入った紙袋を受け取った。

「ケーキには紅茶?それともコーヒー?」
「コーヒーをお願いするわ」
「ああ、わかった」

 由桔也が実登里のリクエスト通りコーヒー豆を準備し始めると、小町も一緒にキッチンに入る。
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