あなたに友達以上の関係は望まない(はずだった)。
***
ギプスで右腕をガッチリと固定されてから、二週間が経った。
利き腕の自由が利かないことへの不満もそこそこあるけれど、そんな日々にも慣れ始めていた。
その帰り道。
ビルの隙間をすり抜けるような一月の冷たい夜風が、駅のホームを吹き抜けていく。
マフラーに顔を埋めながら電車を待っていると、コートのポケットの中でスマホが震えた。
左手で取り出して画面を見ると、通知欄に表示されたのは『北ヶ瀬さん』の文字。
「……北ヶ瀬、さん」
毎日のように看病してくれていたあの日以来の連絡に、一気に私の体は熱を帯びていく。
しっかりと高鳴る胸を押さえながら、私は震える指でメッセージを開いた。
『お疲れ様です、和泉さん。お仕事、それから右腕は大丈夫ですか?』
『また近いうちに、一緒に食事でもどうでしょうか』
『それと、兄の結婚式の日取りが正式に決まりました。また詳しく話を聞いてくるので、詳細が分かり次第お知らせさせてくださいね』
「……そうだった。お兄さんの結婚式のこと、すっかり忘れてた!」
北ヶ瀬さんと出会ったときから条件の一つとして言われていた、お兄さんの結婚式への参加の件。
あのときは何も考えずに了承したけれど、由希子に教えてもらった北ヶ瀬さんの実家の呉服店のことを知ってしまったせいか、どうしてもただの式とは思えない。
「(ど、どうしよう。すっごく豪華な披露宴とかだったら……ちゃんと北ヶ瀬さんに聞いておかないと)」
私は彼からの返事に『お久しぶりです!食事、ぜひ行きましょう!結婚式のことも、いろいろ打ち合わせしなきゃですね!』と返信して、再びポケットの中にスマホを仕舞い込んだ。
北ヶ瀬さんへの恋を認めてから、初めて会う約束をした。
今までと同じように楽しみな気持ち以外に、それまで感じたことのない高揚感と、ほんの少しの緊張が私の中に入り混じっていた。