あなたに友達以上の関係は望まない(はずだった)。






 時々、北ヶ瀬さんの気持ちが分からなくなるときがある。

 友達だから、と言ってキスを拒んだくせに、腕が折れたと知ると毎日家まで来て看病してくれたり、こんなふうにドレスを用意してくれたり、友達の範疇を超えるようなことを平気でする。




 それもこれも、全部彼の優しさなのだと一括りにしてしまえばいいのだろうか。

 これ以上鏡を見ていると泣いてしまいそうになって、私は慌てて立ち上がった。

 せっかく綺麗に施してくれたメイクを台無しにするわけにはいかない。




 「和泉さん、お待たせしま──」


 サロンのセット部屋を出て、待合室に向かうと、同じタイミングでそこへやってきた北ヶ瀬さんは、私の姿を見るなり言葉を失ったようにピタリと足を止めた。


 そして私も北ヶ瀬さんの姿を見て、思わず体の動きが止まってしまう。

 いつもは仕事用のスーツ姿ばかりの彼が着るフォーマルな礼服姿は、息を呑むほどかっこよくて、私の心臓はまたしても早鐘を打ち始める。



 「……すごく綺麗です、和泉さん。よく似合っていますよ」

 ほんの少しだけ頬を染めながら、心底眩しそうに私を見つめる北ヶ瀬さん。

 その優しい声色に、ついさっきサロンで知ったドレスの真実が重なって、どうしようもなく甘い期待が膨らみそうになる。



 ……ダメだ。今の私はただの友達じゃない。

 単なるカモフラージュ役だ、しっかりしなくちゃ。



 「ありがとうございます!北ヶ瀬さんこそ、いつもと雰囲気が違っていてすっごくお似合いです!」

 「和泉さんにそう言ってもらえると、少し自信が湧いてきました」

 「あ、それとこの素敵なドレス!北ヶ瀬さんが選んでくれたって聞きました!ありがとうございます……!でも、どうして私のサイズを?」

 「あ、えっと、それは……実は由希子さんからお聞きさせてもらいました。せめてドレスだけは僕が用意したくて」

 「……!」



 そんなことを言われると、せっかく閉じ込めておいた私の恋心がまた蓋を開けて表に出ようと躍起になる。


 「そ、そうだったんですね!一生大事にします!」

 「喜んでもらえてよかったです」

 「このドレスに見合うよう、今日は張り切ってお式に挑みます!」




 溢れ出てくる気持ちを無理やり押し込めて、気合十分にウインクをしてみせる。

 すると北ヶ瀬さんは、私の耳元でそっと囁いた。





 「あと、僕の呼び方は北ヶ瀬さん、じゃなくて夏樹、でお願いしますね」

 「ひぇっ!?」




 そう言って彼は小さく笑いながら、「それじゃあ会場へ向かいましょうか」と私の腰にそっと手を添えてエスコートしてくれた。

 いくらばっちりメイクで挑んでいるとはいえ、自分でも分かるほどに耳まで真っ赤に染まってしまった。






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