あなたに友達以上の関係は望まない(はずだった)。
北ヶ瀬さんのお兄さんの挙式と披露宴は、予想通り……いや、予想以上に厳かで豪華だった。
事前に北ヶ瀬さんからお得意先や取引先の社長さん達が勢揃いする、と聞いていたけれど、こんなにも大勢の人があつまる式は行ったことがない。
それに、てっきり呉服店を営むお家だから式は神前式だとばかり思っていたけれど、どうやらお兄さんの強い希望でチェペル式に変更になったのだとか。
北ヶ瀬さんの親族達がズラリと並ぶ中、彼の隣に座った私を、まるで値踏みするように鋭い視線が容赦なく突き刺さる。
「(……うぅ。さすがに居心地が悪すぎる)」
歴史のある呉服店の一族というだけあって、親族のほとんどが格式高い着物を身に纏っている。
そんな「和」の空気が充満する親族席に、まるで異物のように混ざり込むドレス姿の私と、黒のジャケットにグレーと黒のストライプ柄のコールズボンでビシッと決めた北ヶ瀬さん。
そのあからさまな対比が、実家のしきたりに対する彼の『反抗』の強さを物語っているように見えた。
やがて、荘厳なパイプオルガンの音がチャペル内に響き渡り、純白のウエディングドレスを着た彼のお兄さんの奥様が入場してきた。
牧師さんの前で神様に永遠の愛を誓い合う、新郎新婦の幸せそうな横顔。
幸せいっぱいのその光景を、北ヶ瀬さんは心底喜んでいるように少しだけ目を細めて、ひどく穏やかで優しい表情をしている。
「(なんて、綺麗なんだろう)」
ステンドグラスから差し込む光に照らされた彼の横顔は、本当に見惚れてしまうほど美しかった。
けれど、その横顔を見つめれば見つめるほど、私の胸の奥に冷たい風が吹き込んでくる。
『夏樹』と名前で呼んでほしいと頼まれた。
私が喜ぶからと、サイズを調べてまで自腹でドレスを用意してくれた。
だけど、それは彼が心底優しい人だからだ。
現に私は今ここに、北ヶ瀬さんの実家に対する思いを反映するためだけの人にしか過ぎない。
それに、私は一生結婚なんてしないと決めていた。
将来は老人ホームで気楽に過ごすために、必死に貯金をしているような女だ。
だから、あの祭壇の前に立って、誰かとあんなふうに永遠の愛を誓い合う日なんて、私の人生には絶対に訪れないのだろう。
いつか、今隣にいる北ヶ瀬さんも、いつかは本当に好きな人を見つけて、あそこに立つ日が来るのかな。
その時、彼の隣で笑っているのは……私じゃない誰かだ。
いくら私が北ヶ瀬さんに友達以上の関係を望んでいても、だからといって恋人になりたいのか、将来は結婚したいのかだなんて、そんな明確な答えは持っていない。