あなたに友達以上の関係は望まない(はずだった)。
「わっ!えっと、夏樹さんのお兄さん……ですよね!本日はおめでとうございます!」
「アッハハ!そんな堅苦しいのは好きじゃないから、ほら座って座って!あれだけ爺さん婆さんに詰められてたんだから疲れてるでしょ?」
「いえ、そんなことは……」
「今日は本当に、夏樹と一緒に来てくれてありがとう。それを君に伝えたくてね」
裕一さんは、夏樹さんによく似た穏やかな目で私を見つめ、手に持っていたシャンパングラスを軽く傾けた。
こんなロビーで主役自ら挨拶に来てくれたことに恐縮していると、雄一さんは少しだけ声を潜め、重厚な披露宴会場の扉の方を見つめるように目を細めた。
「あいつが実家の命令にここまでハッキリ反抗したの、実は初めてなんだよね」
「え……?」
「それまで夏樹はさ、生活も、学校も、留学も全部家の指示に従ってきた優秀な子だったんだけど、結婚の話が出たときに初めて自分の意見を口にしてくれてさ」
「そんな」
「俺達の両親、昔から絵に描いたような冷え切った夫婦でさ?」
裕一さんの口から出たその話を聞いて、北ヶ瀬さんとビアホールに行ったときのことを思い出した。
『僕の家は昔からかなり厳しくて……。外食はおろか、家族が集まって食事を摂ることすら珍しかったんです』
実家が厳しいお家だとは聞いていたけれど、ご両親の仲がそこまで冷え切っているなんて思いもしなかった。
「家の中はいつも冷え切っていてね、両親が笑い合っている姿なんて俺達一度も見たことがなかったくらい」
「夏樹さんから少しだけ聞いていましたけど、そこまでだったとは知りませんでした」
「だから夏樹は昔からずっと言ってたよ。『自分は絶対に、心から愛した人と、あたたかくて普通の幸せな家庭を築きたい』って」
「──家庭を、築きたい……?」
「あたたかい家族を持って、たった一人の人を存分に愛して、愛されてみたいってね」
あたたかい、家庭を──。
裕一さんが私に話してくれた内容は、北ヶ瀬さんがこれまで一度も私に明かしてくれなかった……将来の夢の話だった。