あなたに友達以上の関係は望まない(はずだった)。
「でも、だからこそ夏樹が今日ここに君を連れてきてくれたのを見たときは心底安心したよ。あいつはまだ諦めてなかったんだって知れたからね」
裕一さんはそう言って、祝福に満ちた優しい笑顔を私に向けた。
「これからも夏樹のこと、よろしくね」
私の目を見て軽く微笑むと、奥様の待つ華やかな会場の中へと戻っていった。
再び一人になった私は、その場から一歩も動けなくなった。
裕一さんは弟である北ヶ瀬さんの幸せを心から願っていて、私を歓迎してくれた。その言葉はどこまでもあたたかくて、祝福に満ちていて……だからこそ、私の胸の奥を容赦なく締め付けていく。
北ヶ瀬さんは誰よりもあたたかい家庭を築くことを望んでいた。
「(なのに、私はどう……?)」
誰かと新しく家族になるのが怖くて。関係性が変わっていくのが怖くて。
もう二度と傷つきたくなくて、一生独身で、将来は老人ホームに入るために必死で貯金をして、そうやって傷つかないための頑なな檻の中に自分を閉じ込めて生きていくんだと決めていた。
現に、夏樹さんに出会った時も、自ら「友達以上の関係にはならない」と条件を突きつけたのは私自身だ。
『僕達は、〝友達〟でしたね』
あの日、北ヶ瀬さんがはっきりと私の部屋で身を引いたのは……私のせいだ。
もしも、私がこのまま北ヶ瀬さんの優しさに甘え続けて、彼の隣に居続けたらどうなる?
結婚願望さえ持っていないような、関係が変わることを恐れて逃げ回っているだけの私が、彼の隣に居座り続けたら───。
私は北ヶ瀬さんの一番大切な人生の夢を、永遠に奪ってしまうことになるんじゃないのだろうか。
「和泉さん、お待たせしました」
「あっ、北ヶ瀬……夏樹さん」
二人分のグラスを持って帰ってきた北ヶ瀬さんは、私にそれを手渡すとふわりと微笑む。
いつもと変わらない優しいその笑顔を見た瞬間、どうしようもなく視界が歪みそうになった。
私の自分勝手に、これ以上彼の未来を奪うわけにはいかない。
北ヶ瀬さんには、同じ夢を見て、同じようにあたたかい家庭を作れる人と一緒に幸せになるべきだ。
私なんかじゃ、彼の心を満たしてあげることなんて……きっとできない。
「──ごめんなさい、私、少しお手洗いに行ってきます」
「…… 和泉さん?」
ドレスの裾を持ち上げて、私は北ヶ瀬さんから顔を逸らしながら逃げるようにその場を立ち去った。
華やかな披露宴会場の光が、祝福の空気が、今の私には息ができないほど眩しすぎて、痛かった。
「(私、もう北ヶ瀬さんと一緒にいちゃダメだ……)」