あなたに友達以上の関係は望まない(はずだった)。
広大で天井の高い、老舗ホテルのエントランスロビー。
大理石の床に冷たい空気が漂う中、私を気遣うように柔らかい声をかけてくれた北ヶ瀬さんに向かって、私はわざと明るい声を振り絞った。
「今日は本当にお疲れ様でした!私の任務も無事に終了ってことでいいでですか?」
「任務?……あぁ、えぇもちろんです。和泉さんのおかげで両親も親戚もとりあえずは引き下がってくれました。本当に和泉さんのおかげです。ありがとうございます」
「よかったぁ!じゃあ私、ここでお先に失礼しますね」
「あの、せめて家まで送らせてください」
「ううん、大丈夫です!私、この後ちょっと寄りたいところがあるので。せっかくこんなに綺麗にしてもらったし、このまま帰るのはもったいないじゃないですか!」
「でも」
これ以上北ヶ瀬さんの優しさに触れてしまったら、絶対に泣いてしまう。
一度この涙をこぼしてしまったら、多分、もう止められない。
北ヶ瀬さんが引き留めるよりも先に、背を向けて足早に歩き出した。
……早く、一刻も早く帰りたい。
北ヶ瀬さんが贈ってくれた、繊細なレースのネイビー色のドレス。
ほんの数時間前まで浮き足立つような幸福感で満たされていたはずなのに、今は足にまとわりつく重たい鉛のようだった。
履き慣れていないヒールの高い靴のせいで、足元がおぼつかなくてツルツルと滑る床で何度もつまずきそうになる。
それでも、立ち止まるわけにはいかなかった。
家に帰ったら、一番にお風呂に入ろう。
四十二度の熱いお湯に浸かって、サッパリしたい。足の浮腫みもすごいし、肩の凝りもひどいから、スクラブでマッサージでもしながら疲れをとりたい。
そして、もう全部忘れてしまおう。
北ヶ瀬さんのことも、この恋心のことも、全部──。
「和泉さん!待ってください……っ!」