あなたに友達以上の関係は望まない(はずだった)。
北ヶ瀬さんの切実な告白に、私は大きく目を見開いた。
あの日、私の部屋で彼が引いた境界線。
それは、私を突き放すためのものじゃなかった。
私の『友達以上は望まない』という身勝手なルールを守るために、北ヶ瀬さんが必死に自分自身の想いを押し殺してくれていたものだった。
「僕の理想の家庭は、和泉さんじゃないと意味がない。だけど、それをあなたに押し付ける気はないんです。和泉さんが結婚願望がないというのなら、僕はそれを望まないし、恋人関係を望まないというのなら、一生友達関係のままでもいい」
「(……何を、言ってるの?)」
北ヶ瀬さんの言葉の意味が理解できなくて、私は彼の胸の中で顔を見上げた。
「何言ってるんですか!そんなのおかしいです! どうして……っ、どうしてそこまで私のわがままを聞いてくれるんですか! 一生友達なんて、北ヶ瀬さんには何のメリットもないじゃないですか!」
「──そのくらい、和泉さんのことを愛してしまったから」
その言葉を聞いた瞬間、かつてないほど大きく胸が高鳴った。
『愛してしまったから』
そのたった一言で、私がこれまで傷つかないために必死に積み上げてきたものが、音を立てて崩れ去っていく。
頭が真っ白になって、呼吸の仕方を忘れてしまうかのように息が詰まった。
「ずっと友達でいたいといってくれていたのに、すみません」
「……っ」
「君を愛さずにはいられなかった」
「北ヶ瀬、さん」
「ごめんなさい、和泉さん──」
北ヶ瀬さんの声が揺らいでいる。
涙でぼやけてた視界のその先には、悲しげな表情を浮かべている北ヶ瀬さんがいた。
「でも安心してください。実は僕、来年から海外の支社に戻らなくちゃいけなくなるんです」