あなたに友達以上の関係は望まない(はずだった)。
「高校からイギリスにいました。大学と院はアメリカで、その後の就職先もずっと海外の支社で働いていました」
「すごいですね、じゃあ英語ペラペラなんですね!」
「いえ、そんなことはないですよ。今はだいぶ慣れましたけど、最初はもう全然ダメでした。聞き取りはできても、そのあとなんと言って答えたらいいのか言葉がまるで出てこず……苦労しました」
「私本当に英語ができないから、ペラペラの人すごい尊敬してるんです」
「海外へ行ったことは?」
「まだないんです。すっごく興味はあるし、いろんな文化に触れてみたいなぁなんて思いながらも、これまでなかなか行く機会に恵まれなくて」
辻村くんと付き合っていたころ、一度シンガポールへ行く計画を立てていたことがあった。
けれどどうしても飛行機が苦手な彼は最後まで気乗りしなかったみたいで、結局私は諦めて国内旅行に変更したことを思い出した。
「どうして今回帰国されたんですか?」
「……」
ふとその質問を投げた瞬間、それまで爽やかでにこやかな表情だった北ヶ瀬さんが一瞬だけ顔を強張らせた……ような気がした。
けれどすぐにまた口角を上げてにっこりと微笑む。
「家の事情です。あと、兄の結婚式があるので」
「そう、なんですか」
なんとなく、これ以上は聞かない方がいいのかも。
それでもどうしても、最後に聞いておきたいことがあった。タイミング的に、今しかない。
「あの、北ヶ瀬さんは恋人を作る予定はないんですか?」
「……と、いうと?」
「私は何度もお伝えしているとおり、恋人関係になることを望んでいません。だから、本当にお友達とか、そんな関係でいいのかなって思ってしまって」
「……」
「私みたいなよく分からない女に、北ヶ瀬さんの時間を取らせてしまっていいのかなって……気になって」