あなたに友達以上の関係は望まない(はずだった)。
「──ふぅ。あとは莉里ちゃんから頼まれてた挨拶回りと接待だけかぁ。すぐ帰してもらえればいいんだけど」
やっとの思いで捕まえたタクシーで取引先の会社から帰社した私は、自分のデスクに戻ってもう一度彼女から事前に渡されていた資料とご挨拶の手紙を準備していた。
オフィスの窓から覗く外はすっかり暗くなっていて、未だにシンシンと降り続く雪はアスファルトを白く染め上げていく。
「(予定よりも早く帰ってこられてよかった)」
白石がプロジェクトの仕事を引き取ってくれたおかげで、束の間の休息を得ることができた私は、鞄の中に放り投げていたスマホを手に取って電源を入れる。
画面が光を灯したとき、北ヶ瀬さんからメッセージが来ていたことに気づいた。
『お久しぶりです。日本は今とても寒いですが、体調はいかがですか?
今日はクリスマスですね。
僕はもうすぐ空港に到着します。無事に帰れそうです。
もし和泉さんのご都合が合えば、この後少し会えませんか?』
「(北ヶ瀬さん、帰ってこられたんだ!)」
先月から海外出張続きでほとんど日本にいなかった北ヶ瀬さん。
今回のシンガポール出張はいつ帰ることができるか分からないと言っていたから、クリスマスに会う約束はしないでおいた。
そもそも、ただの友達という間柄で特別な日に一緒に会う約束をするのはいかがなものかと悩んでいたのもまた事実。
白石と二人で飲んでいるときにたまたま北ヶ瀬さんと遭遇したあの日。
彼の隣にいた女性のことを、私は未だに聞けずにいた。
「(でも、帰国して一番に私と会ってくれるということは……あの女性は彼女では、ない?)」