あなたに友達以上の関係は望まない(はずだった)。
──って、私のバカ!
北ヶ瀬さんに彼女がいようと関係ないじゃない!
この件についてはもう気にしないって、昨日お風呂の中で決めたばかりだ。
それでもふとした瞬間に気にしてしまうのは、北ヶ瀬さんと今のこの心地よい関係が続かなくなることを懸念してるからだろうか。
それとも、彼のことを取られるのが……嫌だからだろうか。
「……っ」
あらかじめ予約していたタクシーが迎えに来るまで、あと十分。
北ヶ瀬さんへの返信はタクシーの中でしようと、このモヤモヤした気持ちに無理やり終止符を打って下へ降りる準備をしていたときだった。
「……あれ?そういえば私、莉里ちゃんから手土産受け取ってない」
デスク周りやロッカーの中、彼女のデスクへ行って確認してみても、それらしきものは見当たらない。
「(もしかして莉里ちゃん、申請し忘れてる?)」
この季節にそぐわない汗がタラリと流れた。
様々な食品を扱うこの会社では、基本的に手土産は自社製品の詰め合わせを持参するのが基本となっている。
事前に申請が必要で、前日に総務部から配られてくるはずだ。昨日の時点でそれがなかったということは、つまりは準備されていないということ。
「嘘、でしょ……?」
いや、手土産のことを事前に伝えていなかった私にも非がある。
「(待って、どうしよう。こういうとき、どうしたらいいんだっけ)」
今から走ってデパ地下に向かう?……いや、今日はクリスマスだしきっと大混雑だ。絶対に間に合わない。
それとも総務に行って手土産が余っていないか聞いてみる?……ダメだ、あれは特注品だから申請された数しか用意していないと聞いたことがある。
特に今回の接待相手は、数年前に私が死に物狂いで新規開拓して契約を勝ち取った高級ホテル『グランドインペリアル東京』だ。
今日はそこの総支配人と総料理長までもが参加すると聞いている。
「(いくら今は莉里ちゃんに引き継いでいるとはいえ、この接待に顔出すと言った以上……これは完全に私の落ち度だ)」
食のプロを相手にする接待で、手土産を忘れるなんて絶対にあってはならない失態。
焦りと不安が一斉に押し寄せて、押しつぶされそうになる。
白石とのプロジェクトに気を取られ過ぎていた。