あなたに友達以上の関係は望まない(はずだった)。
北ヶ瀬さんの的確な指示を聞いてすぐ、私は椅子に掛けていたコートをひったくるように持ってオフィスを飛び出した。
前々から北ヶ瀬さんは仕事ができる人なんだろうな、ということは分かっていた。
二人でどこかへ行くとき、北ヶ瀬さんは毎回たくさんの提案をしてくれる。
仕事で手一杯になっている私が負担にならないようにと、いつも気遣いと配慮を欠かさない。
私もそんな彼にいつかお礼をしなくちゃ、と思っていた矢先のこの大失態。
「北ヶ瀬さんだってやっと帰国したばかりなのに、こんなことを頼んでしまって本当に……ごめんなさい」
エレベーターが来るのを待っているこの時間、北ヶ瀬さんへの申し訳なさがどんどん膨れ上がっていく。
『謝らないで、和泉さん。僕、嬉しいんですよ』
「嬉しい?どうして、ですか?」
『こうして頼ってもらえたから。あなたのピンチを救える人の中に、僕を入れてもらえていることが嬉しいんです。だから気にしないで?』
「……っ」
『じゃあ、またあとで会いましょう。こんな時間までお疲れ様。日本はものすごく寒いから、体調崩さないようにしてくださいね』
北ヶ瀬さんの優しさが、私の心の中にじわりと染み込んでくる。
彼の優しさは、時折私をダメにさせる。
優しくて、あたたかくて、それでいて危険な北ヶ瀬さんの優しさに、私はどんどん侵食されていく。