あなたに友達以上の関係は望まない(はずだった)。
北ヶ瀬さんの声がした。
慌てて振り返ると、北ヶ瀬さんは安心したようにいつもの穏やかな笑みを浮かべて駆け寄ってくる。
「お疲れ様です、和泉さん。こんな遅くまでよく頑張りましたね」
「き、北ヶ瀬さん!? どうして、本当に待っていてくれたんですか!?」
「約束しましたから。……それに、どうしても会いたかったから」
白い息を吐きながら、北ヶ瀬さんは私が手に持っていた荷物を『持ちますよ』と言って引き取ってくれる。
そのときふと一瞬だけ触れた彼の手に、思わずドキッと心が跳ね上がる。
アルコールが入っているせいだろうか。
今日はやけに北ヶ瀬さんのことを意識してしまう。
「体、冷えちゃっているね。とりあえず車に乗ってください。温まりましょう」
そう言って北ヶ瀬さんは自分の首に巻いていたカシミアのマフラーを外すと、それを私の首にふわりと巻き付けた。
ほんのりと香る彼の香水の匂いと、マフラーに残っているあたたかさに、胸の奥がキュッと締め付けられる。
車内に乗り込むと、暖房の温もりと一緒に差し出されたホットカフェラテ。
私がいつも好きで飲んでいるミルク多めのそのカスタマイズを見て、これまで必死に押さえつけていた名前の付けられない感情がぶわっと溢れ出てくる。
「北ヶ瀬さん、優し過ぎますよ……!それもイギリス産ですか!?」
「ハハッ!和泉さんの頑張っている姿を見たら、誰だって応援したくなりますよ」
「……っ」
「営業職は大変でしょう。僕の兄も営業のような仕事をしていますが、見ていてつくづく大変だなといつも思っていましたから」
「そう、なんですか。お兄さんも営業を……」