あなたに友達以上の関係は望まない(はずだった)。
そういえば、北ヶ瀬さんの家のことはあまり知らない。
確か高校生のときからずっと海外にいたけれど、このたび家の事情で帰国してきたこと。それからお兄さんがいて、再来月に結婚式を挙げることになっているということ。その程度だ。
「(でも接待の手土産を買ってくれたとき、実家と縁があるからって言ってたよね?あんな老舗の和菓子屋さんと縁があるって、どういうことなんだろう)」
カフェラテのほのかなミルクとコーヒーの香りを堪能しながら、私は頭を傾げた。
「(もしかして、実は実家がとてもお金持ち……とか?)」
改めてチラチラと北ヶ瀬さんを横目に盗み見る。
生地の分厚い上品なコートに、黒革の手袋。そして何より北ヶ瀬さんはスーツがとてもよく似合う。
まるで大人の男性のお手本のような彼。
そんな北ヶ瀬さんは、俯き加減にどこか寂しげな表情を浮かべていた。
「北ヶ瀬さん、どうかされましたか?」
「いえ、すみません。今夜は一生懸命働かれた和泉さんを精一杯労いたかったのですが……」
「いやいや、そんな……!労うだなんて!今日は私が北ヶ瀬さんにお礼をしなくちゃいけないくらいですよ!」
「せっかくのクリスマスだというのに、どこのレストランも、この近くのカフェでさえ全て予約で埋まっていました」
しょんぼりと肩を落としている北ヶ瀬さん。
さっきからスマホを何度も確認していたのはそのせいだったんだ。
「イギリスではクリスマス当日はほとんどのお店が閉まるんです。英国は家族との時間を大切にする文化がありますから。でも日本はずっと街が明々していると友人から聞いていたので、当日の予約でも大丈夫だろうと思っていたのですが……」
そう言いながらどんどん落ち込んでいく彼の様子を見て、私はクスリと笑ってしまった。
きっと、北ヶ瀬さんは分かってないな。
その労いたかったという気持ちだけで、私が今どれだけ救われているか。
あたたかくて快適な車内で大好きなカフェラテを飲んでいるだけで、私は今、こんなにもホッとしているというのに。