あなたに友達以上の関係は望まない(はずだった)。
まだ飲み始めたばかりだというのに、北ヶ瀬さんは酔いが回ってきたのか、綺麗な白い肌がほんのりと赤く染まっている。
もしかして北ヶ瀬さん、お酒があまり強くない?
私も昔はすぐに酔って目を回すタイプだった。
けれど、社会人になってから幾度となく取引先との接待や付き合いを重ねていくうちに、自分自身が酔うまでのアルコールの種類と量を知って、少しずつ飲み方を覚えて鍛え上げてきた。
彼は一杯目のジョッキを未だに握りしめながら、どことなく寂しげに微笑む。
今日は北ヶ瀬さんの本音を聞き出そうと思って誘ったのだ。
卑怯なやり方かもしれないけれど、由希子との一件からどうしても北ヶ瀬さんと直接会って話がしたかった。
そして、あわよくば由希子のことをどう思っているのか聞き出したい。
「僕は和泉さんに出会えて本当に幸せ者です」
「え!?そ、そんなこと……!ってか、どうしちゃったんですかいきなり!」
「僕の家は昔からかなり厳しくて、外食はおろか、家族が集まって食事を摂ることすら珍しかったんです」
「え?」
北ヶ瀬さんは頬杖をついて、潤んだ瞳をこちらに向けながら言葉を溢すように紡いでいく。
普段なら絶対に見せないような彼の砕けた姿勢が、なんだかとても新鮮に思えた。
「僕はつまらない人間なので、日本に帰ってきてからこんなふうに飲みに誘ってくれる人もいなかった」
「……」
「だから、僕はあなたに会えてから毎日がとても楽しいんです」
ジョッキの縁を指先でなぞりながら、ふにゃりと力なく笑う北ヶ瀬さん。
その言葉を聞いた瞬間、チクリと冷たい罪悪感が走った。
「(北ヶ瀬さんはただ純粋に私と飲むことを喜んでくれている……。なのに私は、最低な理由で彼を誘い出してしまった)」