あなたに友達以上の関係は望まない(はずだった)。
それに、北ヶ瀬さんがつまらない人間だなんて、そんなこと絶対にない。
彼は優しくて、紳士で、そしてユーモアに溢れた人だ。毎回一緒にいる時間が驚くほどあっという間に過ぎてしまうくらい、私にとってはすごく居心地が良くて、そして──……。
「(──って、ストップ!私、今何を考えて……っ)」
ドクン、と大きく跳ねた心臓の音が、騒がしい店内でもはっきりと聞こえた気がした。
一気に顔が火照っていく。
「(これ、絶対アルコールのせいじゃない)」
ここ最近、ずっと自分の中にあったモヤモヤの正体が暴かれそうになるのが怖くなった。
「あ、あのっ!私、ちょっとお手洗いに行ってきます!」
「うん。足元、気をつけてくださいね。ここの床はとても滑りやすくなっているので」
私は勢いよく立ち上がって、逃げるように早足でテーブルから離れた。
ダメだ、バカ!私のバカ!
今日はお酒の力を使って、北ヶ瀬さんと由希子の関係を暴く作戦だったじゃない。
それなのに、どうして私がこんなに動揺しちゃっているのよ!
「(……頭、冷やそう)」
洗面所の冷たい水で手を洗って、鏡に映る自分を見つめる。
──私、今、ちゃんと北ヶ瀬さんと『友達』でいられているよね?
私と出会えてよかったと言ってくれた北ヶ瀬さん。
毎日が楽しいって、そう言ってくれた言葉がずっと頭から離れない。
やっぱりお酒になんて頼らないで、ちゃんと北ヶ瀬さんと向かい合わなくちゃ。
北ヶ瀬さんの純粋な気持ちに、私もきちんと応えたい。
私はグッと気合いを入れ直して、再び北ヶ瀬さんの元へ小走りに向かっていった、その瞬間だった。