あなたに友達以上の関係は望まない(はずだった)。
***
「……右前腕の骨折ですね。きれいに折れてしまっているので、ギプスで固定して治るまで安静にしておいてください」
夜間救急病院の無機質な診察室で、お医者さんの淡々とした声で診断が下った。
──バチが当たった。
北ヶ瀬さんを酔わせて根掘り葉掘り聞き出そうとした天罰が下ったんだ。
レントゲン写真で赤丸を付けられている部分が、きれいに折れた箇所を指している。
右腕をガチガチの白いギプスで固められて、痛み止めの点滴を終えた頃には深夜二時を回っていた。
「あまり右手を使わず、頼れる人に頼って安静にしてくださいね」
真っ白なギプスを呆然と眺めながら、私は左手でスマホを握りしめて現実という名の壁にぶつかっていた。
「(頼れる、人……)」
そう言われても、私には今、頼れる人がいない。
里英はまだ一歳にも満たない咲良ちゃんの育児で一睡もできないほど手一杯だし、そもそも今は旦那さんの実家に帰省していて会うことさえままならない。
田舎に住んでいる両親だって、今は旅行に行っている。骨折のことを話せばきっと飛んでやってきてくれるだろうけれど、こんな情けないことで年明け早々に迷惑をかけたくない。
おまけに家事代行業者や宅配サービスはこぞって年末年始の休業に入ってしまっている有様だ。
「(どう、しよう……)」
ビアホールで派手に転んだあのとき、私をゆっくりと抱き上げた北ヶ瀬さんは当たり前のように一緒に病院へ行こうとしてくれた。
けれど、私はそれを頑なに断って一人でタクシーに乗り込んだ。
いい歳した大人が横転しただなんて情けない姿を見られたくなかったし、何よりこれ以上北ヶ瀬さんを巻き込みたくなかったから。