あなたに友達以上の関係は望まない(はずだった)。
「(夜間の救急外来、一万八千円……。タクシー代も合わせたら二万円超えだ)」
予想外の大きな出費にため息を吐きながら、不慣れな左手でなんとか鍵を開けて、誰もいない冷たくて暗い部屋に帰宅した。
私はいったい何をしているんだろう。
由希子の一件からいつまでもウダウダして、素直に聞けないから北ヶ瀬さんを酔わせて聞き出そうだなんて考えて、挙げ句の果てに転んで利き手を骨折するなんてとんだ大馬鹿者だ。
ふっと鼻で自分で自分を嘲笑いながら、お肉や油の匂いがこびりついたコートを脱ごうとして、絶望した。
「やばい、脱げない」
ガッチリと固定された右手は一ミリも動かせない。
左手一本でお気に入りのコートのボタンを外すことさえ、信じられないほど時間がかかってしまう。
「ってことはこれ、ご飯食べたり、髪を洗ったり、服の着替えでさえロクにできないんじゃ……」
そこまで考えて、泣きそうになった。
「(私、本当に今一人ぼっちなんだ)」
友達も、親も、親友の里英でさえ頼れないこともある。
今までずっと「一生独身で、高級な個室付きの老人ホームに入って一人で気楽に生きていく」という私の最終目標でもあったはずの将来が、途端に怖くなってしまった。
私はこれから先、死ぬまでこうして誰にも頼れないまま一人で生きていくのだろうか。
「(こういうとき、隣に誰もいないっていうのは……寂しいかも)」
きっとこの孤独はどれだけのお金を積んでも拭いきれないんだ──。
一人ぼっちの部屋の冷たさと、これから始まる不自由な生活への恐怖に怖くなる。
声を殺して、ぽろぽろと涙を流すことしかできなかった。
──ピンポーン。
そのとき、静まり返った部屋に冷たく突き刺さるような電子音が鳴り響いた。