あなたに友達以上の関係は望まない(はずだった)。





 こんな時間に誰だろう。

 今は誰にも、会いたくないのに。



 不慣れな左手の袖で必死に涙を拭って、重い身体を引きずりながら玄関へ向かう。

 そして片目を閉じてドアスコープを覗いた。



 「……え」

 そこに立っていたのは、激しく息を切らしている北ヶ瀬さんだった。

 慌てて玄関のチェーンを外してドアを開けると、彼の両手にはスーパーやドラッグストアの袋がいくつも握られていた。




 「北ヶ瀬、さん?えっと、どうして、家に帰ったはずじゃ……」

 「帰れるわけがないでしょう、和泉さんのあのような姿を見たあとに」




 いつもは穏やかで心地よい北ヶ瀬さんの声が、今は低く、どこか怒りを孕んだようにも聞こえる。

 「和泉さんが嫌がったから病院にはついて行きませんでした。でも右手を骨折したとメッセージをもらって、心配で居ても立っても居られずにここまで来てしまいました」

 「そんな!もう遅いですし、これ以上北ヶ瀬さんに迷惑かける訳にはいかないです」

 「……少しだけ、お邪魔させてもらえませんか?」
 


 北ヶ瀬さんの真っ直ぐな視線が、私を射抜くように突き刺さる。

 こんな強引な北ヶ瀬さんは初めてだ。




 「北ヶ瀬さんさえよければ、ど、どうぞ……」

 玄関の主導権を彼に譲ると、きれいに靴を揃えて「お邪魔します」と言いながら私の部屋に入ってくる北ヶ瀬さん。





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