あなたに友達以上の関係は望まない(はずだった)。
「……よし、乾きましたね」
ドライヤーの音が止まって、北ヶ瀬さんが私の正面にスッと回り込んで腰を下ろした。
「今日もありがとうございました!」
「このくらいお安いご用ですよ」
「あの、この連休中、本当に北ヶ瀬さんにお世話になりっぱなしだったので申し訳ないです。もし私にできることがあれば、なんでも言ってください!」
前のめりになってそう尋ねた私を見て、北ヶ瀬さんは少しだけ驚いたように目を丸くした。
そして何かを企むような、悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「なんでも、ですか?」
「は、はい! 私にできることなら、なんでも……!」
拳を握りしめて意気込む私を見て、北ヶ瀬さんはしっかりと私と向かい合った。
一気に近づいた彼の距離感に、心臓が跳ねる。
「──じゃあ、僕のこと『夏樹』って呼んでください」
「へ?」
一瞬、耳を疑った。
夏樹って……北ヶ瀬さんの、下の名前。
「えぇ!?」
「ずっと苗字呼びだと、なんだかまだ少し距離があるような気がして寂しかったんです。和泉さんに名前で呼んでもらうの、実は密かに憧れていました」
頬をほんのり赤く染めながら、それでも真っ直ぐに私の目を見つめて、彼は「ダメですか?」と首を傾げる。
……ずるい。そんなの、反則だ。
「い、いいですよ!も、もちろんです!」
「じゃあ今、呼んでみてください」
「今ですか!?」
「こんなふうに毎日会えるのは、今日で最後なので」