あなたに友達以上の関係は望まない(はずだった)。
テーブルの上に置いていたスマホが、突然ブーブーッと鳴り始める。
画面が明るくなって、ポップアップに表示されたのは里英からの着信を知らせるものだった。
「もしもし、里英?」
『お疲れ、和泉。今時間大丈夫?』
「あ、うん。ほら、私骨折しちゃってるしずっと家にいるよ」
『そっか、ならよかった。今さ、あたし由希子と一緒にいるんだけどね?』
「え、あ、由希子と……」
『これから二人で和泉の家に寄っていい?骨折のお見舞いに行きたいし、それに利き腕やっちゃってるんだから、いろいろ家のこととか滞ってるでしょ。掃除とかしてあげるよ』
「え!?あ、いや、えっと……っ」
『あと十分くらいで着くから、また連絡するね』
「あ、ちょっと里英!?」
プツッと切られてしまった電話。
「嘘でしょ!?ど、どうしよう!」
これから里英と由希子がうちに来るなんて……!
後ろのほうから『またあとでねー!』という由希子の声もはっきりと聞こえた。
由希子のその声を聞いて、脳裏をよぎったのは連休初日に聞いたあの言葉。
『あたしが北ヶ瀬さんのこと狙っても、本当にいいんだよね?』
私の家には今、北ヶ瀬さんが丁寧に畳んでくれた洗濯ものがあるし、キッチンには彼お手製の料理がずらりと並べられている。
右腕を骨折している私が一人でできるはずのないことが、誤魔化しようもなく広がっているこの部屋に、由希子達がくるなんて──。
「(それはさすがにマズイ気がする……!)」
せっかく自覚した恋心も、初めて名前で呼べた喜びも、すべてが一瞬で吹き飛んだ。
「とにかく隠さなくちゃ!」
激しく動揺しながら、私は急いで北ヶ瀬さんの痕跡となるものを一つずつしまい込んでいった。