あなたに友達以上の関係は望まない(はずだった)。





 私の不甲斐なさを間近で見ていた白石は、さっそくクライアントへの新年の挨拶を交えたアポ取りの電話をかけながら、小声で「それ」と手に持っていたファイルを指差してそう言った。


 ここ数年営業成績がダントツ一位の白石は、きっと私より何倍も忙しいに決まっている。

 部署内で共有されている電子カレンダーには、白石の予定は分刻みで移動と挨拶回りのオンパレードだ。




 私は口パクで「大丈夫だから!」と言って首を横に振って断ると、白石は私の手からスッと重たいファイルを取り上げた。


 「あ、な!ちょっと……」

 「──お世話になっております。わたくしイマムラ食品製造株式会社の白石と申します──……」



 会社用のスマホを長い指で支え、肩に挟んで繋ぎながら私から奪ったファイルをペラペラとめくる白石。

 受話器の向こうの相手にはこれ以上ないほど爽やかで完璧な営業スマイルの声を届けながら、その視線だけは、私の不器用な左手と真っ白なギプスをじっと見つめている。




 その姿に、なんだか胸の奥がざわついた。



 「──はい、よろしくお願いいたします。失礼いたします」

 通話を終えた白石は、スマホをデスクに置くと椅子を引いて私の方へとわずかに体を傾けた。

 一切の落ち着きを見せない騒がしいフロアの中で、白石の低い声だけが、私の耳元にまっすぐ届く。




 「な、なに?」

 「高野、お前さ。もうちょい甘えろよ」

 「え?」

 「今さら俺に遠慮なんかすんな」



 ふわりと、白石がいつもつけている少しスパイシーなシトラスの香りが鼻腔をくすぐった。

 いつもの軽口で揶揄ってくるような、そんな雰囲気じゃない。

 見つめてくる切れ長の瞳があまりに近くて、私は思わず椅子の背もたれに体を引いた。





 「え、遠慮とかじゃないし!ただ私より白石のほうが忙しそうだし、こんなことしてたら仕事終わんないよ!? 周りの目だってあるんだから……っ」



 慌てて小声で反論する私の言葉を遮るように、白石はフッと口元を緩めた。

 そのまま大きな手を伸ばしてくると、私のデスクに置かれていた未開封のペットボトルをいとも簡単に捻り開け、ドン、と私の手元に置き直す。




 「周りはどうでもいいわ。……高野だからやってんだよ。他のやつらにこんなことするかよ」

 「……っ」







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