あなたに友達以上の関係は望まない(はずだった)。






 「あ、あのね白石。……ごめんなさい。私、白石とは付き合えない」


 静かな会議室に、私の声がはっきりと響いた。

 一瞬、白石の肩が微かに揺れた気がしたけれど、彼は何も言わず、ただじっと私の次の言葉を待ってくれている。




 「私ね、今他の人のことで……揺らいでる。だけどこれからどうしていいかも分からなくて、自分の気持ちに戸惑ってばかりなんだけどね?でも、そんなふうに白石と一〇〇%向き合えていない時点で白石からの告白を曖昧にしておけないって、思ったの」

「……」

「こんな中途半端なまま、白石の優しさに寄りかかるようなことだけはしたくない。白石は私にとって、大切な同期で、誰よりも尊敬するライバルだって、ずっと思ってたから」




 左手をギュッと握りしめて、私は自分の中にある精一杯の誠意を言葉に乗せた。

 何歳になっても、自分の気持ちを言葉にするのって難しい。


 エアコンの低い稼働音だけが響く中、白石は口元をきつく結んだまま、ゆっくりと視線を落とした。ほんの一瞬だけ、その端正な顔が揺らいだような気がした。



 「……高野が言う他の男ってのは、あの男だろ?」

 「え?」

 「居酒屋の帰りに会った、アプリで知り合ったっていう……あの男」



 不意に落とされた低い声に、私は息を呑んだ。

 ゆっくりと顔を上げた白石の瞳が、まっすぐに私を射抜く。



 「やっぱり気づいてたかぁ」

 「見りゃ分かる。高野がそいつのこと『ただの友達』って言ってた時から、お前の顔……もう普通に恋してます、って表情だったから」

 「えぇ!?そ、そんなことない……こともないかも」

 「だろうな」




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