おもひで猫列車へようこそ〜後悔を抱えたあなたにサヨナラを〜
私の部屋は三階建てアパートの二階にある1Kで広さは六畳ほどだ。

小さなキッチンと押入れが一つついているだけのシンプルな角部屋で、隣の部屋は長らく空き家となっている。
上の階にはおばあちゃんが一人暮らししているが早くに就寝するため、深夜は物音ひとつ聞こえたことはない。

私は振り向かずに、すぐに玄関とベランダに視線を走らせた。 

(玄関の鍵、閉まってる) 

(ベランダの鍵も……)

しっかりと施錠を目で確認すると、ホッと肩を撫で下ろした。

「だよね。気のせい、か……」

「あほぅ、気のせいちゃうわ」

(……っ!)

再び聞こえた低いしゃがれた男性の声に、息を吸い込んだまま身体が硬直する。

私は押入れから背を向けた状態で木製テーブルの前に座っているのだが、目の前のスケッチブックをみつめたまま動けない。

(こ、わい……)

目だけで壁掛け時計を見れば、時刻は深夜二時二十二分を指している。

(待って。お化けって二時に出るとかいうよね……)

(なに、いま、お化け出てるの?)

(どうしたら……っ)

生まれてこの方霊感なんてものも皆無で、今まで幽霊に遭遇したこともない。

でも息を殺して耳を澄ませば、背後に誰かの気配がある。背中の感覚を最大限に研ぎ澄ませながら、私はゆっくりと呼吸を整える。

(一斉ので振り返ろう)

そう自分に言い聞かせた時だった。

「何してんねんっ」

「きゃああああ!!」
< 5 / 31 >

この作品をシェア

pagetop