おもひで猫列車へようこそ〜後悔を抱えたあなたにサヨナラを〜
「会いたいよ」

口にすれば彼の優しい笑顔を思い出して涙がこぼれそうになる。

──『じゃあ、十九時半に星野丘(ほしのおか)公園の桜の樹の下で』

彼の少し高めの声が聞こえてきて、私は目じりに浮かんだ涙を手の甲で雑に拭った。

こんな風に二度と会えなくなってから後悔しても、なにひとつ変えられるものなんてない。

ただ、後悔がしんしんと雪のように降り積もっていくだけだ。 

「静馬くん……、私、もう疲れた……」

人物画専門で同じく画家志望だった彼の分まで絵を描こう、それがせめて私ができることなんだ、なんて虚勢を張ったそばなら彼に二度と会えない現実に押しつぶされて心が苦しい。

この一年、なんとか受け入れがたい辛い事実を消化しようとしてきたがもう限界だ。

目が覚めるたびに苦しくて夢じゃないんだと絶望して、心の中を負の感情だけが埋め尽くしていく。

「……っ、もう嫌だ……」

私はスケッチブックに描いていた下書きを鉛筆で乱雑に塗りつぶすと、ぐしゃぐしゃに丸めて後ろに放り投げた、その時だった。


「──痛っ!」

(!!)

突然、背後から聞こえた見知らぬ男性の声に私は大きく体を震わせた。

(え……、いまの声……誰?)
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