夜と最後の夏休み

01.黄昏

 一学期が終わった。僕、佐々木夜(ささき よる)は、あくびをしながら校舎を出た。

 背中には五年と一学期分背負って、すっかり体になじんだランドセル。手元には上履き袋。


「夜は荷物少ねーなー。俺の、半分持ってくれよ」


「やだよ。だからちょっとずつ持って帰れって言っただろ」


 隣を歩くのはニャンタカこと、根子孝寿(ねこ たかとし)。ランドセルからはリコーダーが飛び出し、更に横には巾着が何個もぶら下がっていて、手には鉢植えとトートバッグ。引き出しがないだけ、前回の三学期の終わりよりマシに見えた。


「うっせー。先生みたいなこと言ってさ。夜は生真面目だよなー」


「ニャンタカが雑すぎるんだ」


 しょうがないからトートバッグだけ持ってやることにした。貸し一つだ。僕は心が広いので、夏祭りまでは待ってやろう。


「夜は自由研究どうすんの」


 ニャンタカが汗を垂れ流しながら言った。


「自分のことは自分でやる」


「なんそれ」


「そのまんま」


 意味わからん、とニャンタカは笑った。わかってたら、こいつは僕に荷物を持たせたりしないだろう。

 住宅街の入り口まで一緒に歩いて、ニャンタカとは別れた。トートバッグを返すと薄情だのなんだの言われたけど、そこまで持ってあげただけでも感謝してほしい。

 だいたいニャンタカの家の前は坂になってるから付き合いたくない。僕はそこからまた自分の家に向かわないといけないのだ。


「またなー」


「うん。次は七夕祭りあたりかな。またね。宿題、ちゃんとやんなよ。もう写させないから」


「そりゃ困るなー」


 そう言って、ニャンタカは笑いながら行ってしまった。あいつ、絶対に僕のを写す気でいる。


< 1 / 35 >

この作品をシェア

pagetop