夜と最後の夏休み
 家まではそんなに遠くない。だけど真夏のじりじりした太陽に照らされると、とんでもなく長く感じる。きっと僕もニャンタカと同じくらい汗だくなんだろう。


「あっつう」


 汗と一緒に声がこぼれ落ちた。




 ニャンタカと別れてから、五分もたたずに家についた。母さんがお帰りと出迎えてくれた。

 昼ごはんは冷たいそうめんと唐揚げ。唐揚げは冷凍だけど、と母さんは言うけど、おいしいからなんでもいい。

 昼ごはんの片付けを待ってから、僕は母さんと夏休みのしおりを広げた。


「そもそも夏休みの宿題っていうのは、一定期間に目標を達成する練習なのよ」


 毎年、夏休みの計画を立てるときに父さんに言われる言葉だ。

 母さんに言われたのは初めてだけど、前よりずっと、すんなり頭に入ってきた。

 たぶん、去年の夏休みに自分勝手なことをしてめちゃくちゃ怒られたのが効いている。

 好き勝手やることと、責任を持ってやるのは違うのだと、父さんにも母さんにも言われた。


「えっと、じゃあワークは毎日ちょっとずつやって……」


 ワークと、工作と、読書感想文と、そして自由研究。工作は父さんとプラネタリウムを作る約束をしている。

 なので父さんの仕事が休みになるお盆期間にしよう。読書感想文は課題図書から本を選ばなくてはいけない。


「読書感想文、苦手だ」


「母さんだって苦手よ。むしろ嫌いだわ。だーいっきらい! でもやらないといけないのよ。嫌いだろうがなんだろうが、一定のクオリティで納品する。それも、まあ練習ね」


 本を読むことが仕事みたいなはずの母さんはブツブツ言いながらも課題図書の一覧を一緒に確認してくれる。

 読書感想文は、とりあえず課題図書を何冊か読んで考えることにした。


「でも後回しにするとしんどさが倍増するからね。課題図書から一冊選ぶのは七月中に済ませましょう」


「はーい……」


 夏休みのしおりにざくざくと予定を書き込む。そして本題の自由研究の話だ。


「自分のことは自分でやる……は、いいけど、それを自由研究として、どう仕上げるの?」


「こう、生活の教科書に載ってるみたいな感じで、カレンダーに毎日することと、週一でいいことを書き出すのと、あと毎日の食事を一覧にしようかなって思ってる」


「大きい模造紙がいる? それともカレンダー買ってくる? 今はないかなあ。それともノート?」


「模造紙。全体が見えた方がすごいっぽく見えない?」


 母さんは必要なものを聞き出すとスマホでささっと注文してくれた。


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