夜と最後の夏休み
 一通りの不満も吐き出したし、そろそろお昼だからベッドから起き上がった。詩音も立ち上がって


「そろそろ帰るね」


 なんて言いながら漫画を片付けて、ベッドの下に置いていた荷物を取ろうとして、止まった。


「あ、夜だ」


 ベッドに手をついて窓に顔を近づける。釣られて外を見ると夜が歩いていた。少し離れたところにほのかもいる。


「えー……やだー」

「やだって言われても」


 詩音と二人で窓に顔をくっつけていると、夜がぱっと顔を上げて目が合った。


「よるー」

「ちょ、詩音」


 詩音は窓を開けて夜に手を振った。夜も大きく手を振り返してきた。


「あそぼー」

「いいけど昼ごはん食べてからね」

「やったー。じゃあ一時くらいに夜ん家行くね」

「わかった。美海も来るでしょ?」


 二人のやりとりと、離れたところで怖い顔をしているほのかを交互に見ていたら突然話を振られた。嬉しいけど、ほのかの顔が怖い! それはそれとして夜の誘いは断らない!


「行く!」

「楽しみにしてる」


 そう言い残して、夜は隣に自分の家へ入っていった。ほのかは最後にこちらを思いっきり睨んでから、どかどかと去って行った。




「夜、美海のこと好きだよね」


 ほのかの姿が見えなくなってから詩音がぽつりとつぶやいた。


「そ、そう?」


 それはどうも……。いや、それよりほのかはいいのかなあ。恋敵とはいえ夜のあんまりな対応に逆に胸が痛んできた。


「あんま嬉しくない?」

「それより、ほのかが気になっちゃって」

「おっかない顔してたね」

「気づいてたんなら、もうちょっとさあ」


 けど詩音はなんで? と薄く笑った。美人がこういう顔するとすごく怖い。


「言いたいことは自分で言わないといけないし、言わないでうだうだしててもなんの意味もない。美海が詩音に言ったんだよ」

「そうでした」


 それは去年の夏、私がいじけてふてくされる詩音に言ったことだ。ほのかが夜とどうにかなりたいのなら、ほのかは自分できちんと夜に言わないといけないし、それは私だってそうだ。


「じゃあ詩音帰るね。一時に夜の家。約束」

「うん」

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