夜と最後の夏休み
 詩音と一緒に玄関まで行くと、そこには朝はなかったビニール袋が置かれていた。


「なんだろ。花火?」


 袋の中には花火がたくさん入っていた。なぜか半分くらい線香花火だけど。近くの部屋にいたお母さんが、それはねと苦笑する。


「それね、匠海がバイト先でもらってきたの。しまっておくと忘れそうだから出しておいたのよ。詩音ちゃんもどう? 夜くんも呼んで一緒にやったらいいんじゃない?」


 匠海は私の高校生の兄だ。けど勝手にやっていいのかな。


「お兄ちゃんが彼女や友達と遊ぶんじゃないの?」

「夏休み直前に降られたって。だから美海が花火するときにいたら誘ってあげて」

「うん」


 ……彼女に振られて、それを小学生の妹に慰められるのは辛くないのかなあ。まあ……いいか。


「詩音やりたい」

「じゃあ、あとで夜とやろう」

「やったあ。ありがとうございます。じゃあ美海、あとでねえ」


 詩音はお母さんに頭を下げて私には手を振って出て行った。私も昼ごはんにしよう。


「お母さーん、お昼ごはん、なにー?」

「匠海がチャーハン作ってくれたわよ」

「うわ、すごい量……やけくそじゃん……」


 台所では兄が涙目でフライパンを洗っていた。スープもサラダも、デザートまで、お客さんでもくるの? ってくらい作られている。お兄ちゃんは高校に入ってから隣町の中華屋さんでバイトを始めたので、たまに作ってはくれてたんだけど。


「片付けは私するから、お兄ちゃん、一緒に食べよ」

「妹に慰められるのが辛い」


 お母さんはげらげら笑いながら先に食べている。私もお兄ちゃんと共に席についた。


「うまくできてると思うんだよ」

「うん、すっごいおいしいよ。お兄ちゃん」


 それから昼ごはんを終えるまで、私は必死に兄を慰めた。
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