夜と最後の夏休み

13.切手

「あ、夜」

「詩音。どっか行くとこ?」

「ううん。夜と美海、探してた」


 だから会えて良かった。そう言うと夜は目を細めて嬉しそうにした。


「夜はなにしてたの?」

「切手を買ってきた」


 夜が見せてくれたのは、いわゆるグリーティング切手だった。普通のとは違う、きれいな絵柄がいっぱい入った切手だ。


「すごい、おしゃれな切手」

「詩音に出す手紙に使おうと思って」


 ニコニコしながら、夜はいろいろ見せてくれる。花火、魚、地方の名産品、どれもきれいでかわいい。なのに私が悲しいのはなんで。


「美海は今日はおじいさんのところにお見舞いに行くって言ってたから、一日帰ってこないんじゃないかな。僕の家に行こうか」

「うん」


 夜と並んで歩く。

 ……あれ、夜はちょっと背が伸びた? 去年の夏休みは同じくらいの身長で、私も夜も似たような髪型だから後ろから見たら双子みたいだなんて美海に言われてた。けど、気づいたら夜の方が背が高い。


「夜はさ」


 違うことを考えたくて夜の名前を呼ぶ。


「夜は美海にひらひらしたスカートを着てほしいって言ってたけど、詩音に着てほしい服とかないの」


 なに言ってるんだろ。そんなのあるわけないのに。

 でも私は自分でも着る服に困ってる。できるだけシンプルでユニセックスな服を選んではいるけれど、そのせいでばあちゃんからは、女の子らしくないと嫌われていた。


「詩音に?」


 夜は不思議そうな声を出した。


「そうだなあ」


 けどちゃんと考えてくれるみたいで詩音のことを上から下までマジマジと眺める。少し悩んでから、


「今の服がすごく似合ってるから難しいけど、細いジーパンと大きめのパーカーとか似合いそう」

「そうかな」


 今着ているのはハーフパンツに変な絵の半袖シャツ。あとサンダル。夜と会うのは夏だけだから当たり前なんだけど、長袖の服を着て会ったことがなかった。


「詩音は細いから、すっきりした服が似合うと思うんだ」

「……そっか。ありがと」

「どういたしまして?」


 夜は不思議そうな顔をしたけど、私はなにも言わなかった。




 言いたいことはたぶんいっぱいあった。切手を選んでくれるのは嬉しいけど、詩音がいなくなる準備をしてるみたいでさみしいとか。

 背丈が変わって、ちょっと距離を感じるけど夜は夜のままで嬉しいとか。

 夜が言ってたみたいな服を秋になったら着てみるねとか。


 思っていることを全部言うには暑すぎて、私と夜は黙って歩いた。なんにも言わなくても、ただ並んで歩くだけなのが許されるから夜のことは好きだけど、もちろんそれも言えなかった。
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