夜と最後の夏休み

14.幽暗

 おじいちゃんのお見舞いに行った次の日。私はなんだか疲れちゃって縁側でだらだらしていた。


『美海は将来なにになりたいんだい』


 おじいちゃんに会うたびに聞かれる質問。私は毎回、答えられないでいる。おばあちゃんがいると


『美海はきっとかわいらしいお嫁さんになるわ』


 って必ず言われる。


「お嫁さんて。今時お嫁さんって」


 ため息が出る。お父さんお母さんは、


『年寄りだから、そういう価値観を変えられないんだ』

『こちらの不快感なんて伝わらないしね』


 と、諦めてしまっている。

 お兄ちゃんも同じ質問をされる。でもって


『いい会社に勤めてかわいい嫁さんもらって、ひ孫を見せてくれたら嬉しいねえ』


 なんてニコニコしながら言われている。お兄ちゃんは、


『はいはい、かわいい子がいるといいんだけどね』


 って適当に流している。オトナだ。少なくとも、言われるたびに考え込んじゃう私よりずっと。




 けど、将来かあ。明るい庭を眺めた。誰かと結婚するかどうかは置いておいて、考えた方がいいのだろうか。

 夜は天文系の仕事をしたいと言っている。詩音はとにかく私立の寮のある中学校に行って早く独り立ちしたいのだと、ずっと勉強をしている。

 私にはなんにもない。趣味とか好きなこととか、やりたいこととか。二人の後を追うばかりで、偉そうにしている私には、なにも。


「美海ー」


 呼ばれて振り返ると、お兄ちゃんが大きなコップを持ってきた。ガラスのマグカップ……ジャー? で中身は……パフェ?


「またすごいの作ってる」

「これ、ジャーパフェって言うんだけどさあ、バイト先で映える? デザート考えようって話になって、教えてもらったんだよ」


 手渡されたジャーの上には、缶詰の果物がたくさんとアイスクリームが乗っかっている。その下には生クリームとスポンジとまたフルーツとが層になっていて、一番下はグラノーラ?


「味見してくれ」

「ありがと。いただきます」


 渡されたレンゲをそっと桃の下に差し込む。甘い。冷たい。美味しい。


「おいしい」

「なー。うまくいってよかったわ」

「……お兄ちゃんはさ、将来の夢ってあるの」

「ねえよ」


 即答だった。ちょっとかぶってるくらい即答だった。

 お兄ちゃんは笑って、昨日言われたこと気にしてんのかって図星をついてくる。


「じいちゃんとばあちゃんのあのやりとりは、昔っからだからな。年寄りからしたら、俺と美海はほんの小さいときのままなんだろうよ」

「大きくなったことに気づいてないの?」


 お兄ちゃんなんか去年より五センチ以上大きくなったのに?


「大きさの問題じゃないんだろ。じじばばからすれば、ずっと小さい孫なんだよ。だいたい将来の夢とかさ、高校生にもなると夢って距離じゃなくなるし」


 スポンジとクリームが山ほどレンゲに乗せられて、お兄ちゃんの口に吸い込まれた。


< 32 / 35 >

この作品をシェア

pagetop