詩音と海と温かいもの
 私はずり落ちそうになったカバンを持ち直して、とぼとぼ寮に戻った。

 自分の部屋に向かうと、同室の寧々子が荷造りをしていた。


「お土産たーっくさん買ってくるから、楽しみにしててね!」

「うん、ありがとう」


 わかってる。

 私だって、わかってるよ。寧々子が普通だってことくらい。

 パパとママが帰りを楽しみにしてくれて、「おかえり」って言ってくれるのが普通。

 私みたいに、「まだいるの? 早く戻りなさい」なんて言われるほうが、きっとおかしい。

 そんなこと、寧々子に言ったって仕方ないから、私は笑顔で見送るけどさ。

 でも、それはそれとして、私も荷造りをしないといけない。

 瞼を閉じて、数秒してからまた開けた。

 一番大きなカバンを出して、教科書や服を適当に突っ込んでいった。


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