詩音と海と温かいもの
そして、冒頭に戻る。
昨晩家に電話をかけたら、
『どうにか残れないか聞いてちょうだい』
とだけ言われて、すぐ切られた。
「どうにかって、何さ」
呟いてもどうしようもない。
突っ立っていたって、誰も助けてくれない。
とにかく駅に向かって歩き出した。
本当はバスに乗れば早いけど、できるだけ引き延ばしたくて歩いた。
教科書やノートが全部詰まったカバンはバカみたいに重たい。
だから、仕方なく、私はゆっくりゆっくり歩いた。
駅に着かないように、家に向かう電車に乗らずに済むように。
でも、そうはいかない。
歩いていたら、いつかは駅に着いてしまう。
あと一つ角を曲がったら駅が見える。
一瞬ためらって足を踏み出したら、大きな人にぶつかった。
「ご、ごめん! 大丈夫!? って、詩音ちゃん!?」
「えっ……匠海、さん……?」
転んだ私を見て目を丸くしたのは、友達のお兄さんの匠海さんだった。
「詩音ちゃん、起き上がれる?」
差し伸べられた手を取った瞬間、私の目から止めどなく涙があふれた。
「た、たくみさ……」
「お、どうした? めっちゃ泣くじゃん」
匠海さんは笑って私の荷物を拾った。あんなに重いのに、匠海さんは軽々と肩にかけた。
「こんなとこでしゃがみ込んでないで、飯行こう。さっき、おしゃれカフェ見かけたから、付き合って」
「は、はい……」
大きな手に引かれて立ち上がった。
起き上がると匠海さんは手を離そうとしたけど、私はどうしても、その手を離せなかった。
昨晩家に電話をかけたら、
『どうにか残れないか聞いてちょうだい』
とだけ言われて、すぐ切られた。
「どうにかって、何さ」
呟いてもどうしようもない。
突っ立っていたって、誰も助けてくれない。
とにかく駅に向かって歩き出した。
本当はバスに乗れば早いけど、できるだけ引き延ばしたくて歩いた。
教科書やノートが全部詰まったカバンはバカみたいに重たい。
だから、仕方なく、私はゆっくりゆっくり歩いた。
駅に着かないように、家に向かう電車に乗らずに済むように。
でも、そうはいかない。
歩いていたら、いつかは駅に着いてしまう。
あと一つ角を曲がったら駅が見える。
一瞬ためらって足を踏み出したら、大きな人にぶつかった。
「ご、ごめん! 大丈夫!? って、詩音ちゃん!?」
「えっ……匠海、さん……?」
転んだ私を見て目を丸くしたのは、友達のお兄さんの匠海さんだった。
「詩音ちゃん、起き上がれる?」
差し伸べられた手を取った瞬間、私の目から止めどなく涙があふれた。
「た、たくみさ……」
「お、どうした? めっちゃ泣くじゃん」
匠海さんは笑って私の荷物を拾った。あんなに重いのに、匠海さんは軽々と肩にかけた。
「こんなとこでしゃがみ込んでないで、飯行こう。さっき、おしゃれカフェ見かけたから、付き合って」
「は、はい……」
大きな手に引かれて立ち上がった。
起き上がると匠海さんは手を離そうとしたけど、私はどうしても、その手を離せなかった。