詩音と海と温かいもの
「ご迷惑をおかけしました……!」

「全然。こっちこそごめんね。痛いところとかない?」

「はい、大丈夫です」


 カフェの奥まった席に案内されて、私は頭を下げた。

 匠海さんは笑顔でメニューを広げて、私に向けてくれる。


「何がいい?」

「あ、えっと……コーヒーで」

「ケーキセットあるよ」

「あの、でも」


 つい遠慮したら、匠海さんがニヤッと笑った。その顔が友達にそっくりで、また泣きたくなった。


「俺、この春から調理とか栄養とかの大学に入るんだ。だから、いろんな店でいろいろ見てみたくてさ。試食するから、付き合って」

「……えっと、じゃあイチゴのタルト食べたいです」

「おっけー。俺はチョコレートケーキにしよ。あとさ、俺まだ昼食ってねえんだ。食べていい?」


 私が頷くと、匠海さんは楽しそうにメニューをめくり始めた。

 店員さんにあれこれ頼んでメニューを片付けたあと、匠海さんが改めて私を見た。


「詩音ちゃんの中学ってこの辺だっけ」

「はい、山の上です」

「すげー、めっちゃお嬢様学校じゃん」

「そうなのかな。全寮制だから選んだだけで……」

「今は? 春休み?」

「はい。……実家に、帰らないといけなくて」

「あ、そうなんだ。ごめん、引き留めちゃって。俺も家に帰るとこだったんだ。家からここまで微妙に遠いだろ? だから部屋借りて、さっき契約してきたんだ。んで、来週この辺に引っ越すから、また飯食うの付き合って」


 匠海さんはニコニコと私を見ていた。

< 4 / 33 >

この作品をシェア

pagetop