詩音と海と温かいもの
 ――匠海さんの部屋探しが大変だった話を聞いているうちに、ケーキやコーヒー、サンドウィッチが運ばれてきた。


「やべ、頼みすぎちゃった」

「あはは、テーブルがいっぱいになっちゃいましたね」

「食べよ。俺、腹減った」

「はい、いただきます」


 差し出されたフォークを受け取って、タルトのてっぺんのイチゴを食べた。

 甘酸っぱい。

 匠海さんは大きな口でサンドウィッチを食べている。


「うまいなー。詩音ちゃんも一個食べる? ちょっと辛子入ってるけど平気?」

「私は大丈夫です。匠海さん、お腹空いてるんですよね」

「このあとグラタンも来るから、気にしなくていいよ。詩音ちゃんの感想も聞きたいしね」

「ありがとうございます。いただきます」


 サンドウィッチを受け取って口に運んだ。


「おいしいです。すごい、レタスがシャキシャキだ」

「ね、うまいよね」


 胸の奥がぎゅっとして、また泣きたくなった。

 昔から、匠海さんはいろんなものを食べさせてくれる人だった。

 美海に会いに行くと、高校生だった匠海さんがパンケーキや小さなパフェを作って、食べさせてくれた。


「おいしい」


 って言うと嬉しそうで、美海も


「お兄ちゃんは何作ってもおいしいから」


 なんて自慢気にしてた。

 それが、私にはすごく羨ましくて……思い出しただけで胸が痛くなった。


「詩音ちゃん? やっぱちょっと辛かった?」


 頭の中がぐちゃぐちゃになって俯いた私に、匠海さんが心配そうに声をかけてくれた。

 ダメだ、心配かけちゃ。


「ごめんなさい。前に、美海と一緒にデザートを食べさせてもらったことを思い出しちゃって……」

「ああ、いろいろ食べてもらったもんな。また食いに来てよ」


 匠海さんはさらっとそう言って、サンドウィッチの残りをぺろっと食べた。

 店員さんがサッとやって来て、ホカホカのグラタンと空の皿を交換していく。


「去年の夏、詩音ちゃんあんまり来なかっただろ? 美海と夜が寂しがってたよ」

「えー、でも美海と夜は二人でイチャイチャしてたんじゃないですか? 私がいたら、お邪魔虫です」


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