(漫画シナリオ)マオ様はご所望です!
02:マオ様と同居します⁈
◯麻緒の車(1話終了時同日・深夜)
麻緒、肩肘ついて車の運転中。
杏、チラッと横目で見る
1話終了シーン回想
『ーーお前、危なっかしいんだわ。目の届く範囲にいろ。ーーいいな?』
杏(わたし、そんなに危なっかしいかな……)※小さく溜息
麻緒、ちらっと横目で杏を見る
麻緒「なに?」
杏「い、いえ。なにも!」
麻緒「そう」※前を見たまま
杏「そ、それよりどうして……わざわざ迎えに……?」
麻緒、ハンドルを切る。
車、マンションの地下駐車場に入る
麻緒「友達ん家に泊まるって嘘くせーと思ったから」
杏(……!)
麻緒「お人好しのお前が、深夜に友達ん家に行くの遠慮するだろうなって」
杏(……ば、バレてた)
麻緒、杏を一瞬だけ見て、モニターを見る
杏、ドキッとする
車、バックする
麻緒「杏はもう少し図々しくなった方がいい」
杏(ず、図々しくって……)※困惑
麻緒「気象予報士になって、夢を叶えるんだろ?」
杏、「……!」
麻緒、サイドブレーキをPに入れて、シートベルトを外す。
麻緒「家族を見返すんだろ?」
麻緒「だったら俺で練習をすればいい」※杏の頭に手をポンとおく
杏「……はい」
麻緒、杏の返事を聞いてクスッと笑う。
◯麻緒の自宅マンション・エレベーターの中
麻緒、壁にもたれかかって階表示を見ている
杏、麻緒の隣でリュックを背負って立っている
杏(部屋って最上階だったんだ……)※ボタンの列の中で一番上で光っている25の表示を見て驚く
杏(今日、降りる時全然気づかなかった……)
杏(獅子原さんってなにしてる人、なんだろ……)※ちらっと麻緒を見る
麻緒「そういえば、親にもう伝えたか?」
杏「あっ……」※忘れてた、という顔
麻緒「なら、俺も同席するよ。必要なら代わりに話すから」※優しい目
杏「あ、ありがとうございます」※会釈する
杏(それは、心強い……!)
◯麻緒の自宅マンション・玄関
杏(やっぱり広い……)
杏、玄関から中を見ながらしみじみ思う
麻緒、靴を脱ぎ、スリッパを穿きながら振り返る
麻緒「杏」
麻緒、杏の目をしっかり見て
麻緒「ここに住むにあたって一つだけ約束」
杏、息を飲む
麻緒「言いたいことは言う。聞きたいことは聞く。遠慮はしない。我慢しない。居候だからとか、迷惑かけているからとか思わなくていい」
杏、グッと何かを堪える
麻緒「家が決まるまで放り出したりしないから」※優しい笑み
杏「……はい」
杏「ありがとうございます」※頭を下げる」
麻緒「質問があればどうぞ」
麻緒、先に廊下を歩く
杏、靴を脱ぎながら麻緒の背中に声をかける
杏「あ、あの。獅子原さんってなんのお仕事を」
麻緒「仕事?」
麻緒、立ち止まって振り返る
杏「あ、こ、こんな素敵な場所に住んでいるので、なにされているのかと」※あわあわする
麻緒「会社経営してる。って、言ってなかったっけ?」※杏の顔を見ながら
杏「え?」
杏(聞いてないですケドーーー?!)
◯麻緒の自宅マンション・リビング(日替わり・お昼時)
杏、緊張した様子。ラグの上で正座している。スピーカー設定にしたスマホをローテーブルに置く。
麻緒、ソファーに座って斜め後ろからその様子を眺めている
杏「か、かけます」
麻緒「うん」
杏、発信ボタンを押す。母に電話が繋がる
母『ーーもしもし?』
杏ナ⦅わたしは、ゲリラ豪雨から始まった一連の流れを両親に話した⦆
杏ナ⦅友達の家を泊まり歩いたこと、道端のベンチで寝てしまったこと。ーーそして⦆
杏、ちらっと麻緒を見て
杏ナ⦅獅子原さんに助けてもらったこと⦆
杏「その方が次の家が決まるまで住んでもいいと仰ってくれて」
父『そいつは、男じゃないのか?』
杏「そう、だけど」※視線が下がる
父『ならん! いいわけないだろ!』
麻緒、杏の肩をトンと叩く
麻緒「(代わる)」
杏「は、はい」
杏、麻緒にスマホを渡す。
麻緒、スマホを受け取って話す※スピーカーのまま
麻緒「お電話代わりました、獅子原麻緒と申します。フィックスという会社で代表をしております」
父『だいひょう……?』
麻緒「ええ。後ほど弊社のホームページを杏さんを通じてお送りしますので、わたしの身分をご確認してください」※にこやかな笑顔で
麻緒「もしよろしければ、こちらに来て実際の住居等もご確認いただいても構いません。杏さんとしっかりお話ししてご判断ください」
父『そうさせてもらおう』
母『そうね、杏の顔もみたいし。杏、いい?』
杏「う、うん。わたしは大丈夫……」※ちらっと麻緒を見る
麻緒、頷く
◯麻緒・自宅マンション前(日替わり・午後)
杏ナ⦅話を聞いた両親は翌日、片道三時間かけて来てくれた⦆
両親、呆然としてマンションを見上げる
母「ほ、本当にこんなところに住んでいるの?」
杏「うん。ここの最上階だよ」
母「最上階……」
父、石像化する
杏「とりあえず、入ろう?」
母「そ、そうね」
父「あ、あぁ」
杏ナ⦅獅子原さんの会社はいくつか支社も持つIT企業。しかも上場している⦆
杏(株式コードを教えてもらった時はわたしも驚いた……)
杏ナ⦅そのホームページを見た両親に何度も確認された⦆
杏(顔写真が本物かどうか、とか……ね)※苦笑
杏ナ⦅ちなみに顔写真は今より少し若いだけで変わりはない⦆
杏、顔写真と今の麻緒を比べて
杏(……今の方がかっこいいと思うけど)
杏、両親とエントランスを潜りながら話す
父「その、獅子原ってやつは?」
杏「もうそろそろくると思う。二時まで会議だって言っていたから」
〈過去回想・今朝〉
◯麻緒の自宅マンション・杏の部屋の前・廊下(朝)
麻緒、スーツ姿・ヘアセットしたビジネスモード。杏の部屋の扉をノックする
麻緒「杏、仕事に行ってくる。二時過ぎには帰って来れるから、部屋に上がってもらって」
杏、寝起き・パジャマ姿で扉をそっと開ける
杏「……勝手に、いいんですか?」
杏(わ、スーツだ……。しかもおしゃれ……)※目が覚める
麻緒「いいよ」
麻緒、玄関に向かって歩く
杏、仕事に向かう麻緒に声をかける
杏「い、行ってらっしゃい!」
麻緒、振り返って微笑む
麻緒「行ってきます」
〈過去回想・終了〉
◯麻緒の自宅マンション・廊下
杏、両親に家の中を案内する
両親、あたりをきょろきょろする
杏「ここが、わたしの部屋」
杏、部屋を開ける
杏「って言っても、家具は全部獅子原さん家のものだけど……。元は客室だって」
杏の部屋、壁際にベッド。部屋の片隅に大きなリュック。カーテンが開け放たれて25階の景色が見える。
母「……日当たりのいい部屋ね。景色も素敵」
母、窓から景色を見てうっとりする
父「……うむ」※高所恐怖症のため入り口付近から動かない
杏、窓際に近寄らない父を見て苦笑
杏「クローゼットもね、広いよ」※なにも入っていないクローゼットを開けながら
杏「荷物があるなら入れていいって言ってくれたの。ほとんど雨で浸かっちゃったんだけど……」
杏、しょんぼりする
両親、そんな杏を見て悲痛な顔をする
麻緒、帰宅する
杏、気づいて部屋から顔を出す
麻緒、杏に気づく
杏「獅子原さん」
麻緒「ご両親は?」
両親、杏に続いて廊下に出る
麻緒「ようこそ起こしくださいました」※にこやかに
母「この度は娘がご迷惑をおかけしましたことお詫びいたします」※頭を下げる
麻緒「いえ、それほど迷惑にはなっていませんよ」※目元を和らげる
父、硬い顔
麻緒「部屋は見てもらった?」※杏の方を見ながら
杏「はい」
麻緒「ちゃんと内側から鍵がかかるって伝えた?」
杏「あ!」
麻緒、客室のドアノブの下にある鍵を示す
麻緒「この通り内側から鍵がかかりますので」※父を見ながら
父、麻緒を探る目をしている
麻緒「わたしは基本朝早く夜も遅いので、あまり杏さんとは」
父「失礼だが、なぜそこまでしてくださる?」
麻緒、困ったように笑う
麻緒「その話はあちらでしましょう」
◯麻緒の自宅マンション・リビング
麻緒、アイスコーヒーをローテーブルに出す
杏、L字ソファーに、両親と少し距離をおいて座る
麻緒、オットマンに腰を下ろす
麻緒「改めてご挨拶いたします」
麻緒、ジャケットの内ポケットから名刺ケースを取り出し、名刺を両親に差し出す
名刺には〝代表取締役〟の肩書き
杏、名刺を見て目を丸くする
麻緒「裏に私用の携帯番号も書いております。今後なにかあれば遠慮なくご連絡ください」
麻緒、父に差し出す。
父、それを受け取って母に渡す
麻緒「どうぞ、飲んでください」
両親、グラスに口付ける
麻緒、二人が喉を潤した様子を見て、話を切り出す
麻緒「先ほどの話の続きですが……。実は学生時代、当時の起業仲間に裏切られ落ちたことがあります」※苦笑する
麻緒「その時、たまたま事情を知った見知らぬ人に助けてもらいました。彼はできることをちょっとしただけ、のようなことを言ってましたが、当時どん底にいたわたしはすごく救われました」
麻緒、杏を優しい目で見る
麻緒「人は衣食住が備わっていないと安心できません。心が安定しないと判断力が鈍り、できることもできなくなる」
母、杏をそっと窺う
麻緒「彼女には素敵な夢があります。そして叶える力もある。ーーそう、判断して差し出がましいかもしれませんが、このような申し出をしました」
麻緒、父に微笑みかける
父、グッと何かを堪える様子
麻緒「あとは、先行投資の意味もあります」
杏「先行、投資……?」
麻緒「いつかテレビでうちの会社を紹介してくれたら……という下心です」※茶目っ気たっぷりに微笑む
母、目元を和らげる
麻緒「さて別件ですが、知り合いの弁護士を通して杏さんのご自宅の件を相談しています」
杏(ーーえ?)
麻緒「たしかに自然災害ではありますが、老朽化が進んでいる物件なので家主側にも問題はありそうです。全額回収できるかはわかりませんが、このままゼロということはないはず、という見立てでした」
杏、目に希望が宿る
両親、目を丸くする
麻緒「この件については、このまま私に一任していただけませんか。けっして悪いようにはいたしません」
杏「あ、ありがとうございます!」※頭を下げる
杏(そ、そこまでしてくれていたなんて……)
両親、呆然とする
麻緒、腕時計をちらっと見て立ち上がる
麻緒「すみません、そろそろ会社に戻ります。お二人はどうぞお寛ぎください」
杏「まっ」
父「獅子原さん」
父、立ち上がる。麻緒に頭を下げる
麻緒、目を丸くする
父「申し訳ない。色眼鏡で見ていました」
麻緒「いえ。それが普通の反応ですよ」※苦笑
麻緒、杏と両親を見ながら
麻緒「しっかりお話ししてご判断ください。わたしはここで失礼します」
麻緒、玄関に向かう
杏、麻緒を追いかける
母、杏と麻緒が話す様子を眺めている
杏、安心した様子で笑顔
麻緒、優しい眼差しで杏を見る
母「……覚悟は必要かもね」※横目で父を見る
父「あ、杏ぅ……」※項垂れる
◯麻緒の自宅マンション・リビング・ダイニングテーブル(夜)
テーブルの上にご馳走とお酒が並ぶ
杏、麻緒と対面に向かって座りながら、ビールを飲む
麻緒、ビールを飲みながら焼き鳥を齧る
杏ナ⦅獅子原さんが会社に戻った後、両親とちゃんと話した⦆
杏ナ⦅そして家が見つかるまで、居候させてもらうことになる⦆
杏ナ⦅両親は改めて獅子原さんと電話で話した⦆
杏(それで、今夜はわたしの歓迎会だって……)※にこにこ
麻緒「それでご両親は無事着いたって?」
杏「はい! さっき家に着いたって連絡がありました。獅子原さんによろしくって」※笑顔
麻緒「親父さんは納得してなさそうだったけどな」※苦笑
杏「あ、違うんです。お父さん、高所恐怖症で」
麻緒「高所、恐怖症…?」※目を丸くする
杏「だから余計に強張っちゃっていたみたいで、すみません」※眉尻を下げる
麻緒「それはむしろこっちが悪かったな」※ふっと力の抜けた笑み
麻緒「そうだ。連絡先」
杏「そうでした。わたしも聞かなきゃって」
杏(わたしより先にお父さんたち、知っちゃうんだもん……)※もやっとする
杏、麻緒と連絡先を交換する
麻緒「一応会社の方も教えとく?」
杏「はい! あ」
麻緒「なに?」
杏、麻緒にじっと見つめられて、躊躇いつつ口を開く
杏「名刺、ほしい、です」
麻緒「そんなことか。いいよ、あとで持ってくるから」
◯麻緒の自宅マンション・リビングソファー(夜)
麻緒、お風呂から出てきてリビングにくる
杏、ソファーで座ったまま身体を横にしている
麻緒「杏?」
杏、片手にスマホ、もう片方の手に麻緒の名刺を握ったまま寝ている
麻緒、その様子を見て目元を和らげる。そっと頭を撫でる
麻緒「……よく頑張ったな。もう安心していいからな」
麻緒、肩肘ついて車の運転中。
杏、チラッと横目で見る
1話終了シーン回想
『ーーお前、危なっかしいんだわ。目の届く範囲にいろ。ーーいいな?』
杏(わたし、そんなに危なっかしいかな……)※小さく溜息
麻緒、ちらっと横目で杏を見る
麻緒「なに?」
杏「い、いえ。なにも!」
麻緒「そう」※前を見たまま
杏「そ、それよりどうして……わざわざ迎えに……?」
麻緒、ハンドルを切る。
車、マンションの地下駐車場に入る
麻緒「友達ん家に泊まるって嘘くせーと思ったから」
杏(……!)
麻緒「お人好しのお前が、深夜に友達ん家に行くの遠慮するだろうなって」
杏(……ば、バレてた)
麻緒、杏を一瞬だけ見て、モニターを見る
杏、ドキッとする
車、バックする
麻緒「杏はもう少し図々しくなった方がいい」
杏(ず、図々しくって……)※困惑
麻緒「気象予報士になって、夢を叶えるんだろ?」
杏、「……!」
麻緒、サイドブレーキをPに入れて、シートベルトを外す。
麻緒「家族を見返すんだろ?」
麻緒「だったら俺で練習をすればいい」※杏の頭に手をポンとおく
杏「……はい」
麻緒、杏の返事を聞いてクスッと笑う。
◯麻緒の自宅マンション・エレベーターの中
麻緒、壁にもたれかかって階表示を見ている
杏、麻緒の隣でリュックを背負って立っている
杏(部屋って最上階だったんだ……)※ボタンの列の中で一番上で光っている25の表示を見て驚く
杏(今日、降りる時全然気づかなかった……)
杏(獅子原さんってなにしてる人、なんだろ……)※ちらっと麻緒を見る
麻緒「そういえば、親にもう伝えたか?」
杏「あっ……」※忘れてた、という顔
麻緒「なら、俺も同席するよ。必要なら代わりに話すから」※優しい目
杏「あ、ありがとうございます」※会釈する
杏(それは、心強い……!)
◯麻緒の自宅マンション・玄関
杏(やっぱり広い……)
杏、玄関から中を見ながらしみじみ思う
麻緒、靴を脱ぎ、スリッパを穿きながら振り返る
麻緒「杏」
麻緒、杏の目をしっかり見て
麻緒「ここに住むにあたって一つだけ約束」
杏、息を飲む
麻緒「言いたいことは言う。聞きたいことは聞く。遠慮はしない。我慢しない。居候だからとか、迷惑かけているからとか思わなくていい」
杏、グッと何かを堪える
麻緒「家が決まるまで放り出したりしないから」※優しい笑み
杏「……はい」
杏「ありがとうございます」※頭を下げる」
麻緒「質問があればどうぞ」
麻緒、先に廊下を歩く
杏、靴を脱ぎながら麻緒の背中に声をかける
杏「あ、あの。獅子原さんってなんのお仕事を」
麻緒「仕事?」
麻緒、立ち止まって振り返る
杏「あ、こ、こんな素敵な場所に住んでいるので、なにされているのかと」※あわあわする
麻緒「会社経営してる。って、言ってなかったっけ?」※杏の顔を見ながら
杏「え?」
杏(聞いてないですケドーーー?!)
◯麻緒の自宅マンション・リビング(日替わり・お昼時)
杏、緊張した様子。ラグの上で正座している。スピーカー設定にしたスマホをローテーブルに置く。
麻緒、ソファーに座って斜め後ろからその様子を眺めている
杏「か、かけます」
麻緒「うん」
杏、発信ボタンを押す。母に電話が繋がる
母『ーーもしもし?』
杏ナ⦅わたしは、ゲリラ豪雨から始まった一連の流れを両親に話した⦆
杏ナ⦅友達の家を泊まり歩いたこと、道端のベンチで寝てしまったこと。ーーそして⦆
杏、ちらっと麻緒を見て
杏ナ⦅獅子原さんに助けてもらったこと⦆
杏「その方が次の家が決まるまで住んでもいいと仰ってくれて」
父『そいつは、男じゃないのか?』
杏「そう、だけど」※視線が下がる
父『ならん! いいわけないだろ!』
麻緒、杏の肩をトンと叩く
麻緒「(代わる)」
杏「は、はい」
杏、麻緒にスマホを渡す。
麻緒、スマホを受け取って話す※スピーカーのまま
麻緒「お電話代わりました、獅子原麻緒と申します。フィックスという会社で代表をしております」
父『だいひょう……?』
麻緒「ええ。後ほど弊社のホームページを杏さんを通じてお送りしますので、わたしの身分をご確認してください」※にこやかな笑顔で
麻緒「もしよろしければ、こちらに来て実際の住居等もご確認いただいても構いません。杏さんとしっかりお話ししてご判断ください」
父『そうさせてもらおう』
母『そうね、杏の顔もみたいし。杏、いい?』
杏「う、うん。わたしは大丈夫……」※ちらっと麻緒を見る
麻緒、頷く
◯麻緒・自宅マンション前(日替わり・午後)
杏ナ⦅話を聞いた両親は翌日、片道三時間かけて来てくれた⦆
両親、呆然としてマンションを見上げる
母「ほ、本当にこんなところに住んでいるの?」
杏「うん。ここの最上階だよ」
母「最上階……」
父、石像化する
杏「とりあえず、入ろう?」
母「そ、そうね」
父「あ、あぁ」
杏ナ⦅獅子原さんの会社はいくつか支社も持つIT企業。しかも上場している⦆
杏(株式コードを教えてもらった時はわたしも驚いた……)
杏ナ⦅そのホームページを見た両親に何度も確認された⦆
杏(顔写真が本物かどうか、とか……ね)※苦笑
杏ナ⦅ちなみに顔写真は今より少し若いだけで変わりはない⦆
杏、顔写真と今の麻緒を比べて
杏(……今の方がかっこいいと思うけど)
杏、両親とエントランスを潜りながら話す
父「その、獅子原ってやつは?」
杏「もうそろそろくると思う。二時まで会議だって言っていたから」
〈過去回想・今朝〉
◯麻緒の自宅マンション・杏の部屋の前・廊下(朝)
麻緒、スーツ姿・ヘアセットしたビジネスモード。杏の部屋の扉をノックする
麻緒「杏、仕事に行ってくる。二時過ぎには帰って来れるから、部屋に上がってもらって」
杏、寝起き・パジャマ姿で扉をそっと開ける
杏「……勝手に、いいんですか?」
杏(わ、スーツだ……。しかもおしゃれ……)※目が覚める
麻緒「いいよ」
麻緒、玄関に向かって歩く
杏、仕事に向かう麻緒に声をかける
杏「い、行ってらっしゃい!」
麻緒、振り返って微笑む
麻緒「行ってきます」
〈過去回想・終了〉
◯麻緒の自宅マンション・廊下
杏、両親に家の中を案内する
両親、あたりをきょろきょろする
杏「ここが、わたしの部屋」
杏、部屋を開ける
杏「って言っても、家具は全部獅子原さん家のものだけど……。元は客室だって」
杏の部屋、壁際にベッド。部屋の片隅に大きなリュック。カーテンが開け放たれて25階の景色が見える。
母「……日当たりのいい部屋ね。景色も素敵」
母、窓から景色を見てうっとりする
父「……うむ」※高所恐怖症のため入り口付近から動かない
杏、窓際に近寄らない父を見て苦笑
杏「クローゼットもね、広いよ」※なにも入っていないクローゼットを開けながら
杏「荷物があるなら入れていいって言ってくれたの。ほとんど雨で浸かっちゃったんだけど……」
杏、しょんぼりする
両親、そんな杏を見て悲痛な顔をする
麻緒、帰宅する
杏、気づいて部屋から顔を出す
麻緒、杏に気づく
杏「獅子原さん」
麻緒「ご両親は?」
両親、杏に続いて廊下に出る
麻緒「ようこそ起こしくださいました」※にこやかに
母「この度は娘がご迷惑をおかけしましたことお詫びいたします」※頭を下げる
麻緒「いえ、それほど迷惑にはなっていませんよ」※目元を和らげる
父、硬い顔
麻緒「部屋は見てもらった?」※杏の方を見ながら
杏「はい」
麻緒「ちゃんと内側から鍵がかかるって伝えた?」
杏「あ!」
麻緒、客室のドアノブの下にある鍵を示す
麻緒「この通り内側から鍵がかかりますので」※父を見ながら
父、麻緒を探る目をしている
麻緒「わたしは基本朝早く夜も遅いので、あまり杏さんとは」
父「失礼だが、なぜそこまでしてくださる?」
麻緒、困ったように笑う
麻緒「その話はあちらでしましょう」
◯麻緒の自宅マンション・リビング
麻緒、アイスコーヒーをローテーブルに出す
杏、L字ソファーに、両親と少し距離をおいて座る
麻緒、オットマンに腰を下ろす
麻緒「改めてご挨拶いたします」
麻緒、ジャケットの内ポケットから名刺ケースを取り出し、名刺を両親に差し出す
名刺には〝代表取締役〟の肩書き
杏、名刺を見て目を丸くする
麻緒「裏に私用の携帯番号も書いております。今後なにかあれば遠慮なくご連絡ください」
麻緒、父に差し出す。
父、それを受け取って母に渡す
麻緒「どうぞ、飲んでください」
両親、グラスに口付ける
麻緒、二人が喉を潤した様子を見て、話を切り出す
麻緒「先ほどの話の続きですが……。実は学生時代、当時の起業仲間に裏切られ落ちたことがあります」※苦笑する
麻緒「その時、たまたま事情を知った見知らぬ人に助けてもらいました。彼はできることをちょっとしただけ、のようなことを言ってましたが、当時どん底にいたわたしはすごく救われました」
麻緒、杏を優しい目で見る
麻緒「人は衣食住が備わっていないと安心できません。心が安定しないと判断力が鈍り、できることもできなくなる」
母、杏をそっと窺う
麻緒「彼女には素敵な夢があります。そして叶える力もある。ーーそう、判断して差し出がましいかもしれませんが、このような申し出をしました」
麻緒、父に微笑みかける
父、グッと何かを堪える様子
麻緒「あとは、先行投資の意味もあります」
杏「先行、投資……?」
麻緒「いつかテレビでうちの会社を紹介してくれたら……という下心です」※茶目っ気たっぷりに微笑む
母、目元を和らげる
麻緒「さて別件ですが、知り合いの弁護士を通して杏さんのご自宅の件を相談しています」
杏(ーーえ?)
麻緒「たしかに自然災害ではありますが、老朽化が進んでいる物件なので家主側にも問題はありそうです。全額回収できるかはわかりませんが、このままゼロということはないはず、という見立てでした」
杏、目に希望が宿る
両親、目を丸くする
麻緒「この件については、このまま私に一任していただけませんか。けっして悪いようにはいたしません」
杏「あ、ありがとうございます!」※頭を下げる
杏(そ、そこまでしてくれていたなんて……)
両親、呆然とする
麻緒、腕時計をちらっと見て立ち上がる
麻緒「すみません、そろそろ会社に戻ります。お二人はどうぞお寛ぎください」
杏「まっ」
父「獅子原さん」
父、立ち上がる。麻緒に頭を下げる
麻緒、目を丸くする
父「申し訳ない。色眼鏡で見ていました」
麻緒「いえ。それが普通の反応ですよ」※苦笑
麻緒、杏と両親を見ながら
麻緒「しっかりお話ししてご判断ください。わたしはここで失礼します」
麻緒、玄関に向かう
杏、麻緒を追いかける
母、杏と麻緒が話す様子を眺めている
杏、安心した様子で笑顔
麻緒、優しい眼差しで杏を見る
母「……覚悟は必要かもね」※横目で父を見る
父「あ、杏ぅ……」※項垂れる
◯麻緒の自宅マンション・リビング・ダイニングテーブル(夜)
テーブルの上にご馳走とお酒が並ぶ
杏、麻緒と対面に向かって座りながら、ビールを飲む
麻緒、ビールを飲みながら焼き鳥を齧る
杏ナ⦅獅子原さんが会社に戻った後、両親とちゃんと話した⦆
杏ナ⦅そして家が見つかるまで、居候させてもらうことになる⦆
杏ナ⦅両親は改めて獅子原さんと電話で話した⦆
杏(それで、今夜はわたしの歓迎会だって……)※にこにこ
麻緒「それでご両親は無事着いたって?」
杏「はい! さっき家に着いたって連絡がありました。獅子原さんによろしくって」※笑顔
麻緒「親父さんは納得してなさそうだったけどな」※苦笑
杏「あ、違うんです。お父さん、高所恐怖症で」
麻緒「高所、恐怖症…?」※目を丸くする
杏「だから余計に強張っちゃっていたみたいで、すみません」※眉尻を下げる
麻緒「それはむしろこっちが悪かったな」※ふっと力の抜けた笑み
麻緒「そうだ。連絡先」
杏「そうでした。わたしも聞かなきゃって」
杏(わたしより先にお父さんたち、知っちゃうんだもん……)※もやっとする
杏、麻緒と連絡先を交換する
麻緒「一応会社の方も教えとく?」
杏「はい! あ」
麻緒「なに?」
杏、麻緒にじっと見つめられて、躊躇いつつ口を開く
杏「名刺、ほしい、です」
麻緒「そんなことか。いいよ、あとで持ってくるから」
◯麻緒の自宅マンション・リビングソファー(夜)
麻緒、お風呂から出てきてリビングにくる
杏、ソファーで座ったまま身体を横にしている
麻緒「杏?」
杏、片手にスマホ、もう片方の手に麻緒の名刺を握ったまま寝ている
麻緒、その様子を見て目元を和らげる。そっと頭を撫でる
麻緒「……よく頑張ったな。もう安心していいからな」