(漫画シナリオ)マオ様はご所望です!

03:マオ様に貢がれています⁈

◯麻緒の自宅マンション・リビングソファー(深夜)

杏ナ⦅ーー獅子原さん()に居候を始めて一週間⦆

杏、バイトが終わり帰宅。Tシャツ、デニム姿。
杏「ただいま〜」
麻緒、ソファーで寝転がって本を読んでいる
麻緒「おかえり。顔死んでるぞ」
杏「今日は団体の予約が入っていて、すごく疲れました」
杏、冷蔵庫から〝杏〟と書いたミネラルウォーターのペットボトルを取りだす。
杏ナ⦅意外と快適に過ごせている。それはたぶん、獅子原さんがなにもわたしに求めてこないから⦆
杏、ごくごく飲む。

〈過去回想〉

麻緒、真面目な顔でソファーに座って
麻緒「杏は学業優先。部屋は自分で掃除をすること」
麻緒「ここにいる間、生活費は気にしない。食事は基本個人に任せる。冷蔵庫の食材は自由に食べていい。ただし食べられたくないものには名前をかくこと」
麻緒、笑顔で杏に釘をさす
麻緒「間違っても、居候させてもらう代わりにご飯ぐらいわたしが……とか思うなよ?」

〈過去回想・終了〉

杏ナ⦅だから、今までと同じ生活ペースだ。同じ家に住んでいるけれど、個々の生活が成り立っていて、すごく楽⦆
杏ナ⦅おまけに衣食住の心配なし。冷蔵庫の中はいつの間にか補填されている⦆
杏(ハウスキーパーさんかな……?)
杏ナ⦅それに、獅子原さんはあまり細かいことを言わない。わたしを尊重してくれる⦆
杏(もしこれが、家族なら色々言われているんだろうなぁ……)※両親の顔を思い出しながら嘆息
杏ナ⦅友人の家では気を遣ったけど、個室があるだけで気持ちは楽だ⦆
杏(ベッドは大きいし、お風呂も広い。洗面台はふたつもある……)
杏、ホッと息をつく

麻緒「杏、明日ってかもう今日だけど、朝十時でいい?」
杏「あ、はい」
麻緒「ん。じゃあ、寝坊すんなよ。俺はもう寝る」
杏「お、おやすみなさい」
麻緒、ソファーから立ち上がる。杏を見て微笑む
麻緒「おやすみ」


◯麻緒の自宅マンション・バスルーム(夜)

杏、湯船に浸かる
杏ナ⦅ゲリラ豪雨があった日、わたしは大学にいた。無事だったのは、鞄の中身とその日着ていた服だけ⦆
杏ナ⦅一度だけ家に帰ったけど悲惨な状態だった⦆
杏ナ⦅それでも獅子原さんは使えるものがあれば、と気遣ってくれた。明日アパートに行く約束をしている⦆
杏(使えるもの、あるのかなぁ……。どのみち処分をしないといけないからもう一度アパートには行かないといけないんだけど……)※天井を見ながら溜息
杏(パソコンも浸かっちゃったよね。修理に出したらまだ使えるかな……)


◯杏・アパート(朝)
杏、Tシャツ・デニムで助手席から降りる
麻緒、黒シャツ・黒デニムで車から降りる

杏、鍵を挿して扉を開ける

杏「うっ。こほっ、こほっ」
杏、咽せる。篭った匂いに顔を顰める
麻緒、腕で鼻を口を覆う
杏(冷房も切れちゃったし、濡れたものが乾くとそうなるか……)
杏、涙目で泥だらけの玄関、廊下を見る

麻緒「靴で上がっていい?」
杏「はい」
麻緒、ズンズン部屋に入っていく

杏ナ⦅部屋は1K十畳の和室。アニメに出てきそうな押入れがあり、古くても落ち着きのある空間を気に入った⦆
杏(家賃が安くて、部屋が広いところってなかなかなかったし……)
杏(あの時は、色んな物件を内見したけど、山小屋のようにどこも狭くて驚いたんだよね……)
杏(あとから、これが普通だと知って、びっくりしたけど……)
杏(田舎と都会では平米の大きさまで違うって知らなかった……)

杏、泥だらけの廊下を神妙な顔で歩く
杏、廊下にある冷蔵庫をそっと開ける。中から異臭がして慌てて閉じる
杏、泣きそうな顔をする

麻緒、杏の部屋に入り見回す
部屋の中は泥だらけ。敷きっぱなしの布団にはカビまで生えている

麻緒、押入れの前に立つ
麻緒「開けていい?」
杏「……はい」

麻緒、押入れの中を覗き込む。雨漏りの跡を見つける。カビ臭い匂いに顔を顰める
杏、プラスチックの三段ボックスの引き出しを開ける
杏「この中は大丈夫そうかも……」※ホッとする
杏、ハッとして慌てて閉める。麻緒を見上げると麻緒は後ろ向いて電話をしている
杏(み、見られたかな……)※麻緒を窺う
杏(たぶん大丈夫そう……)※ホッとする
杏、三段ボックスの中身(インナー類)を鞄に詰める

杏(靴下や下着類が無事だっただけでよかった……)
杏、ハンガーラックにかけていた洋服を眺めながら
杏(服は駄目そうだけど……)※しょんぼりする
麻緒「杏、部屋の片付け、業者に頼んでいいか?」
杏「は、はい!」
麻緒、杏の頭にポンと手をおく
杏、涙を堪えながら
杏(獅子原さんがいてくれてよかった……)

麻緒、電話を終える。机の上にある土のついたノートパソコンを見つける。
杏「あ、それ。修理に出そうかと」
麻緒「そう」
麻緒、杏に手渡す。
杏、麻緒からノートパソコンを受け取る

◯家電量販店・PC売り場(午後)

麻緒、店員と話す。
杏、麻緒の後ろから様子を窺う。
店員、パソコンを見て困った様子を見せる
店員「うーん。工場には回しますが、たぶん新しいものを購入する方がいいですね……。水没ですと、修理ができてもトラブルが起きやすく、データ復旧も難しいので」
杏(だよね……)※しょんぼりする
杏ナ⦅初めから期待はしていなかった⦆
杏(水没して時間が経ってしまっているし……)
麻緒「なら、新しいものを」
杏「あ、いえ! 大丈夫です」
麻緒「杏?」※怪訝な顔
杏「大学にもパソコンはありますし、スマホでもできちゃうので」
麻緒、杏の顔をじっと見る
杏ナ⦅本当は来月から気象予報士資格試験の講座が始まる⦆
杏(できれば画面の大きいパソコンで受けたかったけど……)
杏、ひやひやしながら笑って頷く
杏(来月のバイト代で買おう……)


◯ファッションビル・某ブランド・試着室前

麻緒、スマホ片手に俯く。肩にたくさんのショップ袋を提げている。
客、麻緒をちらちら見ている
杏、夏らしいブラウスとロングスカートに着替えてカーテンを開ける
杏「ど、どうでしょうか」
麻緒、杏の声で顔をあげる。
麻緒、杏をじっと見る。近くにいた店員に声をかける
麻緒「これ、一式ください」
店員「ありがとうございます〜!」※笑顔
杏(ーーえ、また買うの?!)※驚く
杏ナ⦅家電量販店の次に向かったのは、駅近のファッションビル。獅子原さんに「着替えが必要だろ」と言われて連れてこられた⦆
杏ナ⦅しかも、わたしの意見はフル無視。ーーわたしの服なのに⦆

杏、服を脱いでワンピースに着替える
杏⦅ちなみに、このワンピースもさっき買ったばかり⦆

〈過去回想〉

◯ファッションビル・別ブランドの試着室前

麻緒「このまま着て帰るので、タグを切ってください」
杏「えぇっ?!」
店員「ありがとうございます!」


〈過去回想・終了〉

杏ナ⦅ここまでにコスメ、靴、服、鞄とひと通り購入した⦆
杏(新作の秋物も……)

杏、試着室から出てくる。
杏、新しいサンダルに足を入れる
店員「お疲れ様でした。お洋服は新しいものをお出ししますね」※と言いながら服を預かる
麻緒、店員にカードを渡す
麻緒「一括で」
店員「は〜い」
杏、頬が引き攣る


◯ファッションビル・通路

麻緒、たくさんショップ袋を肩に提げて歩く
周囲がチラチラ麻緒を見て「かっこいい」と囁く
杏、その声を気にしつつ頬を膨らませる

杏「買いすぎですっ」
麻緒「心配するな。必要経費だ」
杏「でも」

杏ナ⦅獅子原さんは、火災保険の補償が降りるから気にするなと言う⦆
杏(けど、他にも使いたいものはあるし…! でも、服は大事だし…!)※頭を抱える
杏ナ⦅それに⦆
杏、ちらっと麻緒を見上げて、服を見下ろす。
杏(獅子原さんが選んでくれる服は、違う自分になれそう……)

麻緒「でも、なんだ?」
杏「……なんでもありません」
麻緒、クスッと笑って頭に手を乗せる
麻緒「心配するな。誰も請求しねえって」
杏「え?」
麻緒「言っただろ、先行投資だって。だからメディアに出て俺の会社ベタ褒めしてくれ」
杏「……っ」※感動しかけてハッとする
杏「それ、天気と関係ないです」
麻緒「バレたか」
麻緒、くしゃっと笑う
杏、麻緒の笑顔にときめく


◯麻緒の自宅マンション・脱衣所(夜)

杏、ドライヤーで髪を乾かしている
杏ナ⦅あの後、また別のお店に行き買い物をした。今度は獅子原さんの服も買った⦆
杏ナ⦅意見を求められても〝似合ってます〟しか言えなかった、わたし⦆
杏(語彙力のなさよ……)※遠い目
ドライヤー、ブォーン……という音を出しながら髪を靡かせる。

◯麻緒の自宅マンション・リビング

杏、リビングを覗く
杏「獅子原さん、どうぞ〜。って、あれ?」
杏、麻緒の姿がなくリビングを見回す。

麻緒、自室から顔を出す
麻緒「杏」
杏、呼ばれて振り返る
麻緒、こちらに向かって歩いてくる。手に持っているノートパソコンを杏に差し出す。
麻緒「俺が前に使っていたやつだけど」
杏「……え?」
麻緒「初期化したからすぐに使えるはず」
杏、受け取るのを躊躇う
麻緒、杏にノートパソコンを差し出す
杏「……いいんですか?」※麻緒を見上げながら
麻緒「少し型は古いものだけど、スペックは割といいやつだから」
杏、そっと受け取り、胸に抱える
麻緒「頑張れよ」
杏「……はい、ありがとうございます」※頭を下げる
麻緒「風呂入ってくるわ」
杏「は、はい! あ、今日は本当にありがとうございました…!」
麻緒、振り返って微笑む
麻緒「どういたしまして。ゆっくり休めよ」
杏、ドキッとする
杏(わたしは獅子原さんになにを返せるのかな……)※麻緒の後ろ姿を見つめる


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