ユーレイくんとの恋はあぶない秘密が多すぎる

第1話 出会いとユーレイくんの秘密


 〇(れい)の作業部屋・夜

 夜の神社の鳥居の下、結歌(ゆか)(柔らかいオレンジ色のショートボブ)は驚いた顔で嶺(イケメンver)を見つめる。

 結歌「今……なんて?」
 嶺「だから今からオレはキミの彼氏。そしてキミはオレの彼女ってこと。お互いのメリットのためによろしくね?」

 ニコリとほほえむ嶺と対象に赤くなっていく結歌。

 結歌(な、なんで~~~!?)

 モノローグ:なぜこうなったのか。それは今朝、一人の編入生がきたことから始まった。


 〇教室・その日の朝礼前

 前の席に座る親友、奈乃花(なのか)が後ろにいる結歌にスマホの画面を見せている。

 奈乃花「ねえねえ結歌~。昨日アップされた新曲聞いた? zero様の新曲!!」

 再生される動画は、真っ暗な画面から透き通った歌声が聞こえてくるもの。

 結歌「へぇ、zero新曲出したんだ。曲名『会いにいく』……いつも通り恋愛ソングかぁ。って、もう再生数100万回いってるの!? 昨日アップされたんだよね!?」
 奈乃花「そうなの~。zero様のファンには『ワイツベ』に張り付いている人もいるらしいからねぇ」

 モノローグ:人気動画投稿サイト「ワイツベ」。zeroはそこで活動している人気の歌い手で、動画は全て完全な暗闇の中で回されている。顔出しはない仮面系ライバーだが、その声の甘さが人を引き付け登場から一年で登録者100万人を突破した凄腕だ。

 奈乃花「はあ~。zero様どんな姿をしているのかなぁ。隠されると余計に気になっちゃうよね~。結歌も気になるでしょ?」
 結歌「まあ……少しは?」
 奈乃花「えー? せっかくワイツベの歌い手っていう共通点があるんだから、コラボしてみたいとかないわけ~?」
 結歌「あたしみたいな木っ端がー? あはは、ないない」

 モノローグ:実はあたしも昔、ワイツベで歌を投稿していた。父がギター、母が作曲をやっていた影響で歌が大好きで、家族でわちゃわちゃする動画なんかを投稿していたのだ。

 奈乃花「も~夢がないな~。歌手を目指しているんだからもっと大きく出てもいいのに~」
 結歌「そうは言っても、ここ数年は歌えていないからね。いきなり博打(ばくち)なんてうてないよ」

 モノローグ:ところが5年前、両親を事故で亡くしてから歌うことができなくなった。歌っていると苦しくなってしまい、歌いきることができないのだ。
 苦笑していると奈乃花は気まずそうに眉を下げた。

 奈乃花「……ごめん。まだ治らないんだ。心的ストレスだっけ?」
 結歌「まあそんな感じ。でも夢は諦めてないし、いつかなってみせるから大丈夫だよ!」
 奈乃花「そっかぁ。応援するよ! 何かできることがあったら言ってね!」
 結歌「ふふ。ありがとう」

 にっこりと笑ってお礼をいう結歌だが、脳内では汗をたらして心苦しそうな顔をしている。

 結歌(言えない……! 歌えない本当の理由なんて言えないよ……!)



 担任「おーい。席につけー」

 がらりとドアを開けて担任が入ってくると、自然と会話が止まる。

 担任「こんな時期だが編入生を紹介するぞ。なんとあの芸能学校『桃満芸能アーティスト学園』からの編入生だ!」

 ざわめくクラス。結歌も驚いた顔。

 モノローグ:「桃満(ももみつ)芸能アーティスト学園」、通称「桃芸(とうげい)」。芸能人の卵がこぞって通う高校で、これから売れるであろう若者たちがたくさんいる為何かと話題になりやすい学校だ。

 結歌(そんな桃芸からウチ(一般高校)に? 一体どうして……)

 担任「まあ気になるやつも多いと思うからさっさと登場してもらおうか。入ってこーい」

 がらりと開くドア。固唾(かたず)を飲んで見守るクラスメイトたちの前に嶺(もっさりver:薄いグレーの髪を降ろし、前髪でほとんど顔が見えない&厚めの丸眼鏡)が登場。

 全体的にもっさりとした陰の者という姿に、浮足立っていた生徒たちが一斉に落ち着く。

 嶺「幽日野(かすがの)(れい)です。いろいろ事情があって編入しました~。苗字に幽が入って名前が嶺なのでよくユーレイって呼ばれます。皆も気軽にユーレイって呼んでね~」


 クラス一同(笑っていやつなの、それ!?※総ツッコミ)


 担任「しばらくは勝手が分からんと思うが、まあうまくやってくれ。それから――」

 唖然としながら連絡事項を聞き流していると、嶺と目があったような気がする。

 結歌(今……?)

 担任「よーし。それじゃあ幽日野の席は佐々良の横な。佐々良、ついでに案内も頼んだ」
 結歌「えっ!?」

 驚きの声をあげても担任は止まることはなく、結局案内人にされる。


 ○校舎案内中、中庭

 結歌「えっと……これで全部案内終わったけど、分からないところとかある?」
 嶺「ん? んーん。特には~」
 結歌「……そう?」

 モノローグ:先ほどから案内をしているが、幽日野くんはずっとこの調子だ。ほわほわしていて掴みところがない……本当に幽霊を相手にしているような気がしてくる……。

 結歌(って、ダメだよ結歌! 人を見た目や雰囲気(ふんいき)で判断するなんて!)

 頭を振って余計なことを振り払い、明るい笑みを向ける。

 結歌「分からなくなったらまたその都度聞いてね! それじゃあ案内はここまでで……解散でいいかな? もうそろそろバイトの時間なんだ」
 嶺「バイト? 学校が終わってからなんて大変だね」
 結歌「まあね。でも夢の軍資金を貯めるためだし、今頑張っておかないとね!」
 嶺「夢?」
 結歌「うん! あたし、歌手になりたいの」

 照れくさそうに笑う結歌。

 結歌「本当は幽日野くんみたいに桃芸とか、そういう専門の学校に行った方がいいんだろうけどさ。うち、ちょっと事情があっておばさんのお世話になっているからさ、迷惑掛けられなくて。バイトも勉強も頑張りつつ歌の練習もしてるんだ」
 結歌「っていうかそろそろ時間ヤバい! あたし行くね! また明日!」

 慌てて走っていく結歌。その傍で黒いモヤが動いた描写。それをじっと見つめる嶺。


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