私が好きになったのはどっちなの?
 期待を持って聞くが、返ってきたのは素っ気ない答え。
「悪いけど覚えてないな」
 ショックだった。
『ああ。覚えてる』とかそんな言葉を言ってくれるかと期待してた。
 そうだよね。救急には毎日患者さんがたくさんくる。
 私のことなんか覚えているわけがない。
 沈黙が続き、突然先生のスマホがブルブルと震えた。
 電話かな?と思ったら、すぐに樹先生がスマホの画面をタップして耳に当てた。
「はい、青山です。すぐ戻る」
 電話を切ると、先生が私に目を向けた。
「急患だ。……あっ、蓮のこと頼むよ。あいつ、君のこと気に入ってるみたいだし」
 唐突にそんな言葉を残して樹先生は小走りでカフェを出ていく。
 君……か。
 顔は覚えてくれても、名前では呼んでもらえない。そもそも名前すら覚えていないかも。
 おまけに蓮先生のことを頼まれてしまった。
 私は蓮先生の恋人じゃないんだけどな。
 ハーッと溜め息をつきながらコーヒーを飲んでいたら、誰かが私の隣に座った。
 ひょっとして蓮先生?
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