私が好きになったのはどっちなの?
 俺のライバルだけあって腕はいいが、こいつは患者を下に見ている節がある。
 ドイツにいた時と全然変わってない。多分一生変わることはないのだろう。
 五時間の手術を終わらせれば、ルカが「どこか飲みに行かないか?」と俺を誘ってくる。
「俺、これから会議だから」
 冷たく断って白衣を羽織り、ひとり会議室に向かう。
「いつまでも逃げられると思うなよ」
 俺の背中に向かって彼が言った。
 ルカは研修は建前で、本当は俺をドイツに連れ戻しに来たのだろう。
【お前がドイツにいないから退屈。戻ってこいよ】とメッセージを何度も送って来ている。
 俺は【戻る気はない】と冷たく断っても、しつこくメッセージを寄越すのだ。
 元々俺が日本に帰ることに反対だったし、俺たちが師事していた先生が入院したという話も噂で聞いている。だが、ドイツに戻る気はなかった。
 自分の腕を上げるために行ったのであって、日本で仕事をする気持ちに変わりはない。
 樹がいるからうちの病院を継ぐ必要もないが、やはり弟がしっかりするまではそばで見守りたいという思いもある。
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