私が好きになったのはどっちなの?
 ここまではいつも問題ない。
 患者の腕に駆血帯を巻いて消毒すると、身体が緊張してきた。
 私は水森花梨、二十七歳。脳神経外科の新人看護師。背は百六十センチ、猫目で、一度も染めたことのない栗色の髪は勤務中は後ろにひとつで束ねている。
 大学まではメガネだったけど、今は業務の邪魔になるからコンタクトに変えた。マスクをすると曇るし、もう怖いなんて言ってられないから。
 二十七歳で新人というのには理由がある。大学四年の時に交通事故に遭い、その時に処置してくれた医師のことが忘れられず、就職はせず看護学校に行くことを決めたのだ。
「チクッとしますよ」
 患者さんは昨日くも膜下出血で運ばれてきてまだ意識は戻らないが、そう声をかける。
 おじいちゃん、ごめんね。
 心の中で謝りながらこの血管に打つと決めて針を刺すけど、うまくいかない。
 あっ、血管に逃げられた。
「あれ? あれ?」
 腕を凝視しながらもう一度差刺すが、失敗した。
 三月に看護学校を卒業して、この四月に晴れて看護師になったものの、二週間経つのにまだまともに点滴が打てない。
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